[「なるのだ。」の舞台裏]
2022.06.27
売場ニュース
「神戸阪急」ではない。「神戸の阪急」になるのだ。そんな合言葉のもと、神戸のまちのために、神戸の人に愛されるモノ・コトづくりを――。そんな神戸阪急の「なるのだ!」な思いが飛び交う、あれやこれやのプロジェクトの舞台裏を、Rerere編集部が追いかけます。今回は、瀬戸内の造船所から出た廃材を内装に再活用しようという「Dockwoodプロジェクト」を覗いてみました。
ライフスタイルプロデューサーWakoさんと生かす、「波止場の木」
「神戸阪急が、何やら変わった改装計画を進めているらしい」。そんな情報を小耳に挟んだのは、まだ桜の咲く前のこと。わたくしマツモト、その真相をお聞きしようと、5月某日、神戸阪急の会議室へ向かいました。「おはようございまーす!」ハツラツとした声を響かせて、私の目の前に現れたのは、全身白のコーディネートに身を包んだ美女。そう、女性誌「STORY」の連載でも人気を集めているライフスタイルプロデューサーWakoさんです。
Wakoさんといえば、「毎日をちょっと楽しく・幸せに」をテーマに、いち早く2000年代初頭から、おうち時間を彩る衣食住を提案してきた方。そしてこのWakoさんこそ、瀬戸内と神戸阪急を古材のご縁でつなぐ「Dockwoodプロジェクト」のコーディネーター役なのです。「Dockwood」とはつまり「波止場の木」。神戸と同様、造船・海運で栄えた歴史を持つ瀬戸内の造船所から、不要になった足場板を譲りうけて店内で蘇らせようという試みです。
足場板とは、工場の足場に使われてきた杉板のこと。長年使い込まれてエイジングを重ねた風合いが魅力で、昨今ではインテリアの一部に取り入れる人も少なくありません。でもその足場板の素材が、木製からアルミ製へと切り替えが進んでいる今では、古い木のものは年々手に入りにくくなっています。
そんな中で3年前、Wakoさんの元に、「瀬戸内の造船所に足場板の廃材が大量にあるのですが、廃棄処分になる前にどこかに生かすことはできませんか?」という相談が持ち込まれたのでした。
こんなに味のある素材、生かさない手はない!
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今治や安芸津の造船所に、こういうものがあるというお話を聞いて、すぐに見に行ったんです。そしたらもう、すごく感動して……。他の人から見たらゴミかもしれないけれど、私からしたら、こんなおしゃれなアンティーク板が大量にあるの?!って。4年ぐらい前から家族と一緒に、東京・愛媛でお試し二拠点生活をしていた私にとっては、なんだかご縁を感じるできごとでもありました。 |
そしてWakoさんが、この廃材の活用パートナーとして声をかけたのが、神戸阪急の杉崎店長でした。Wakoさんと杉崎店長は、知り合ってかれこれ3年になる仲。2019年秋にWakoさんがプロデュースした、阪急うめだ本店の催事「アレンジで華やぐおうち時間」がきっかけで、お付き合いが始まりました。
2019年に大人気を博した、Wakoさんプロデュースの催事の様子。
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あの催事以来、Wakoさんの感性にすごく共感して、何か一緒に取り組みができないかなって思ってたんです。白金台にあるWakoさんのアトリエショップやご自宅にも伺いましたけど、とにかくWakoさんの暮らしを楽しむアイデアがいっぱい。古材やヨーロッパのアンティーク扉が生かされていて、ナチュラルなんだけどエレガントで……。Wakoさんから廃材のお話を聞いたのは、神戸阪急の改装に当たって、何か神戸らしいことをしたいって思ってた矢先だったので、Wakoさんのセンスをお借りしたら、すごく素敵なことができそうだって思ったんですよね。 |
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まだ何も完成形が見えてない中で、“廃材でこんなことできたら素敵だよね!”って、みんなで夢を語り合うところからのスタート。でもその段階で、“いいね、それ面白い!”って言ってくれた杉崎さんもすごいなと思って。 “品質的に大丈夫?”とかって普通は言いそうじゃないですか。でも、“とりあえず見に行ってから考えよう!”って言ってくれたんですよね。 |
そこにあるもので、“うっかり”素敵なものができちゃうって、楽しい
こうして2021年夏、Wakoさん、杉崎店長などのメンバーは、ともに瀬戸内を中心に造船所に足場板を訪ね歩く旅へ。神戸と同様、瀬戸内海に面した港町は、どこもオープンで気さくな土地柄。まちと造船の歴史を熱く語ってくださる方もいて、かつての神戸に思いを馳せる時間にもなったそうです。
その一方で、つい最近も、廃業になった関東の大手造船所から2万枚もの木製足場板が廃棄され、姿を消してしまったというニュースも……。
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でも廃棄するのだって、お金も手間もかかって大変なんです。だったらこういうものを捨てずに工夫して生かす方が、ただ新品を買ってくるより楽しいじゃない?私は常々思うんだけど、とりたててお金をかけなくたって、冷蔵庫にある余り物で、“うっかり”おいしいものができたら、すっごく幸せじゃないですか。百貨店はどうしてもきれいで隙のない空間になりがちだけど、こういう物語を感じられるものが、一部にでもあると素敵だと思うんですよね。 |
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改装って、どうしてもすごく多くの廃棄物が出てしまうものですが、そんな中で、僕たちはできるだけいろんなものを循環利用したいという思いもあって……。それで西宮阪急の店長をしていた時から、使用済みの古い什器も捨てずに保管して、できるだけ工夫して使い回したりしてたんです。 |
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ただ、いま流行りのSDG‘sとかサスティナブルって言葉でくくられちゃうのも、ちょっと違うなって思うのね。私はそういう理念よりも、まずこの木がすごく素敵だから使いたい、って気持ちの方が先なんです。 |
誰もが見過ごしていたようなささやかなものも、創意工夫とひと手間を加えてチャーミングに。そんなことが結果的にものを生かすことにつながり、自分自身の幸せにもつながっていく、というWakoさん。これまで定石とされてきた、ピカピカにお澄ましした百貨店的空間づくりに、新しい風が吹き込まれようとしています。
作ったらそれで終わり、じゃない
この日のインタビュー後は、さっそくWakoさんが売場担当者から現場のニーズを聞き、どこにどんなふうに古材を使うかアイデアを出し合うミーティングが予定されていました。
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家もそうですけど、建てたからってそこで終わりじゃなくて、 “育てていく”ことも大事。皆さんが発信していくモノやコトに合わせて、これからいかに新鮮さを保っていくか……。そんなことも考えながらなので、あまり最初から決め込みすぎず、フレキシブルにね。こんな規格外のことなのに、売場の方も、施工会社の方も、皆さん最初から“できない”と言うようなことはなくて、“やってみよう!”って感じなのがうれしいですね。 |
古材が使われるのは、主に本館の4階5階6階。これからの豊かさを見つめて、神戸ならではの「暮らしとまちの楽しみ方」を編集していくゾーンです。
自分の理想の暮らしは、どこかに出来合いで売られているものではなく、ひとつひとつ自分で吟味し、手を加え、たえずチューニングしながら育ててゆくもの。だから、たとえ不ぞろいでも、いびつでも、愛おしい。そんなことを思い出させてくれるWakoさんのセンスで、さあ、どんな内装ができあがるのでしょうか。
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コロナ禍で、誰もが自分にとっての心地よさを見つめ直したように、これからは誰かがいいって言ったものを右にならえで持つんじゃなくて、それぞれが自分らしさを掘り下げていく時代。百貨店もそういう暮らしの楽しさを、売場で提案できるといいですよね。 |
5月末には、4tトラック8台に積み込まれた古材が、ついに阪急の倉庫に到着!
これからWakoさんをはじめ、さまざまな方の力を借りて、「波止場の木」たちに新たな居場所が与えられていきます。これからのプロジェクト進行も、また折にふれてこちらでご紹介していきますので、どうぞお楽しみに!
(なるのだ編集室 松本幸)
Wakoさん
1979年生まれ3児の母。ライフスタイルプロデューサー。インテリア、食、季節のイベント、休日の過ごし方、ファッション、旅まで、生活全般にわたって「毎日をちょっと楽しく・ちょっと幸せに」するアイデアを提唱し続ける。週末だけオープンする白金台のアトリエショップも人気。