売場ニュース

新フロア「Hankyu Mode Kobe」に、地元神戸の木がやってきた【前篇】


[「なるのだ。」の舞台裏] [Hankyu Mode Kobe] [インテリア] [ローカルSDG’s] [街のストーリー]
2022.08.30

「神戸阪急」ではない。「神戸の阪急」になるのだ。そんな思いが飛び交う、あれやこれやのプロジェクトの舞台裏を、私たち編集室が追いかけるこのシリーズ。今回お伝えするのは、リニューアルオープンした新館1〜3階「Hankyu Mode Kobe」フロアに、隠しテーマのように散りばめられているある共通項のこと。「木の地産地消」をめぐって、グローバルとローカルがコラボレーションする、ちょっと異例の試みです。(後篇はこちら


地元神戸の木を、新しいフロアづくりに生かしたい


三ノ宮から車を走らせること約10km。緑深い六甲山系が見晴らせる高台に、ひっそりとたたずむ 秘密基地のような木材倉庫があります。この倉庫の主は、木材コーディネーターの山崎正夫さん。「神戸の地域材活用はこの人を抜きにしては語れない」と言われる存在です。地域材とは、地域の森林で産出された木材のこと。つまり「木の地産地消」です。実は、8月31日にリニューアルオープンする「Hankyu Mode Kobe」フロアにも、山崎さんが扱う地域材が生かされているんです。


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2013年に地域材活用を推進するコミュニティ〈シェアウッズ〉を設立、代表を務めてきた山﨑正夫。


山崎さんの活動は、六甲山の間伐材(密集した木立を間引くことで発生する木材)や、市内の道 路整備で伐採された街路樹などの活用コーディネート。放っておくと引き取り手もないまま焼却処分されてしまう木を、製材所や木工所とのネットワークを生かしてレスキューし、内装材や家具、雑貨に生まれ変わらせて、必要とされるところに届けるのです。

そんな神戸の地域材をモードのフロアづくりに生かしたいというアイデアが生まれたのは2021年夏のこと。きっかけとなったのは、新館1階に位置するブルーボトルコーヒーの内装計画でした。バイヤーの成冨友亮はその時のことをこんなふうに振り返ります。


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モード商品部バイヤーの成冨(写真右)と、山崎。

成冨    

地域のコミュニティスペースになるような空間を作りたい、というブルーボトルコーヒーさんの思いを受けて、僕たちも何か神戸らしい独自性のあることができないか、とアイデア出しをしていたんですね。そんな中で社内の先輩から紹介されたのが山崎さんでした。山崎さんと対話を重ねて、地域・六甲山の課題について理解を深めていく中で、「ブルーボトルコーヒーさんと神戸の地域材を使ったお店づくりをやりたい」という話を部内でしたところ、「その取り組み、ほかのブランドさんともやれたら、もっと面白いんじゃない?」って、部のメンバーも乗ってくれたんです。


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家具の一部に神戸の地域材を使用した、ブルーボトルコーヒー店内。家具制作には、同店の内装デザインを手がける芦沢啓治建築設計事務所や、カリモク家具も参加。


「神戸らしいモードってなんだろう?」そんな議論を重ねてきた成冨たちモード商品部メンバーが、リニューアルにあたって掲げたテーマは「暮らしに寄り添うモード」。ただ流行を追うのではなく、モードなアクセントを暮らしの中にさりげなく取り入れ、衣・食・住・遊・美を自分らしく編集していく人たちのイメージがそこにありました。そんな地に足のついたライフスタイルの中で注目したのが「サスティナビリティ」や「ローカル」へのまなざしです。


世界的なグローバルブランドが「地域課題」に反応


さっそく成冨は、思いの丈をブランド各社にぶつけてみることにしました。海外ブランドに対しては、英訳した企画書を本国に送ってアタック。とはいえ、どのブランドも製品のみならず店舗内装でも、独自の美意識で一貫した世界観をつくり上げているところばかり。フロアぐるみで地域材を使いましょう、という呼びかけを百貨店から行うのは、異例のことなのです。

でも、そんな神戸阪急の不安をよそに、さまざまなブランドが「地域課題」に反応。神戸の木を内装や什器に生かしたいという案や、商品としてのプロダクトをつくりたいという案が成冨のもとに返ってきました。

成冨    

地域とのつながりに対して、グローバルブランドならではの発想、クリエーションで賛同いただけたことは、大きな励みになりました。前例がないことばかりで、引き受けてくれた山崎さん、関わっていただいた方々、お取引先様には本当に感謝しています。


山崎    

周りに言うとみんなにびっくりされるんですけど、正直、モードブランドのことはさっぱりわからなくて(笑)、僕自身があまり構えずに済んだのは、かえってよかったかもしれません。


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山とまちが近い神戸ならではの、スモールな循環のかたち


ところで、そもそも山崎さんが神戸の地域材活用に関わるようになったきっかけは、どんなふうだったのでしょうか。

山崎    

もともとドイツ製の自然塗料や木質建材を扱う商社に勤めていました。そこから国産材に興味が 湧いたんですが、調べれば調べるほど課題がいろいろ見えてきたんですね。そんな中、たまたま丹波で「木材コーディネーター」という人材を養成する講座が行われていると知って学びに行ったのが、この道に入るきっかけです。


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2009年には、間伐材で打楽器「カホン」をつくり演奏するワークショップ集団〈カホンプロジェクト〉をスタート。ここでのたくさんの出会いが〈シェアウッズ〉設立につながっています。


山に生えている木は、ただ伐採するだけでは「木材」にはなりません。木を伐採する林業者や、その丸太を流通させる木材市場、さらに丸太の皮を剥いでカットする製材所の存在があって、初めて建材や家具に使えるものになります。しかし林業の衰退によって、各地でそういった仕事のリレーが回らなくなっていく中、バラバラな点と点をつないで統括する「木材コーディネーター」の必要性が、2000年代初頭から高まっていたのでした。


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とはいえ、神戸の場合は少し事情が違うところもありました。というのも、現在の六甲山に生い茂っている木々は、林業のためではなく、災害対策や緑化のために植えられたもの。かつて六甲山は、明治後半に植樹されるまでは、木が燃料用に切られて禿山と化していました。その後ようやく復旧した緑も、昭和の戦中・戦後にかけて再び過剰な伐採に見舞われることに。現在のような緑豊かな六甲山系の姿は、森を育てて土砂災害からまちを守ろうと立ち上がった人々の植樹活動のたまものなのです。

成冨    

実は阪急百貨店でも、昭和30年代に当時の社長・清水雅(まさし)のもと「六甲を緑にする会」が発足して、地元企業や市民の方々と共に、長期間にわたって植樹活動を行っていたんですよ。そういった歴史・背景からも、今回のプロジェクトの意義を感じています。


山崎    

神戸は山とまちが近くて、ほどよく都会。そして神戸の人はみんな神戸が大好きだから、地域のためになることには協力してくださる方が多いですよね。神戸の場合、六甲山の間伐材の利用先 を探さなければならないという課題はありつつも、視点が「林業」じゃないんです。僕らがやって いることは、農業にたとえるなら家庭菜園の延長に近いかもしれません。ちょこちょこ収穫したものを自分たちで料理して近所に届ける、みたいな。それを大規模にやろうとすると疲弊するけれど、神戸ではちょうどいいサイズ感でやれるんですよね。


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林業家でもなく、製材加工者でも木工作家でもないニュートラルな立場で、さまざまな「木の仕事」をつなぐ役割を果たしながら、スモールな循環のかたちをつくってきた山崎さん。後篇では、そんな山崎さんとブランド各社のコラボレーションがいかに進められたのか、その舞台裏に迫ります。


(なるのだ編集室 松本 幸)




Special Thanks


山崎正夫
1970年生まれ。出版社勤務を経て、ドイツ木材メーカーの代理店・日本オスモ株式会社に12年在籍。2009年に間伐材を活用した打楽器づくりのワークショップ集団〈カホンプロジェクト〉を創設し、2013年には木材のプラットフォーム〈SHARE WOODS〉を立ち上げ。以来、神戸を中心に、地域材を通じて森とまちをつなぐ活動を続けている。



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