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2022.09.09
売場ニュース
「私自身、今までさんざん人に助けられて生きているから」。田代美希さんはインタビュー中、何度もこの言葉を口にする。「だから人との出会いっていうのを人よりちょっと大切にしているところがあるのかもしれませんね」。
助けられた数々のシーンはきっと一言では言い表せないだろうけれど、ひとつには今に至るまでの道のりにも関係しているという。大学卒業後、メーカー、航空会社、テレビ局などで働いた後、大学時代から続けてきたフラワーアレンジメントをもっと勉強したいとベルギー、フランスへ。パリに魅せられ、フランス料理学校では料理に没頭。その後テーブルコーディネートの師匠であり「女性としても人生の中で最大の影響を受けた」という二木榮海氏に師事し、現在は神戸で花と料理とテーブルデコレーションのサロンを主催している田代さん。
「その道を志したというよりは人との繋がりでここまで辿り着いた、という感覚なんです」。
一緒に過ごす時間がなによりの「おもてなし」。
特にパリでの経験は田代さんの原点だそうだ。
「憧れのフローリスト、クリスチャン・トルチュ氏に会いたくてパリに渡って、お店に5000円だけ握りしめて客として毎日通い続けたんです。その時に日本人のスタッフの方が『その金額で作る花束ではあなたが見たい技術は見られないから、スタッフが作るものを好きに見ていっていいよ』と声をかけてくださった。その方が現在パリでフローリストとして活躍されている斎藤由美さん。由美さんは『パリにまた来たら連絡ちょうだい』って包装紙に連絡先を書いて渡してくれたんです」。
この日用意してくださったテーブルコーディネート。フラワーアレンジメントには「大好きなパリ」でよく使われる紫陽花や薔薇の色合いやフランボワーズの実の組み合わせ。
「それ以来、パリに通い続け、ベルサイユ宮殿の装飾なども手伝いながら勉強させてもらっていました。大抵そういう大仕事が終わると、由美さんがスタッフたちに『うちに来る?』と誘ってくれるんです。由美さんのアパルトマンにみんなでワイン持って押しかけて、朝まで語り合う。仕事でへこんでた時も、また明日から頑張ろうって思える。ああ、こういう時間が大事なんだなって教えてもらいました。私の中では実はあれこそがおもてなしなんじゃないかと思ってます」。
この日のメインは牛肉の赤ワイン煮込み。大好きなワインを飲みながら、手早くお料理を仕上げていく。
「会話が終わる頃には、テーブルコーディネートがどうだったとか覚えてないでしょ?(笑)」。
これまで人に助けられて歳を重ねてきたからこそ、自分も人に何かできることを。近頃そんなふうに思っているのだと話す田代さんの表情はとても優しい。
「たとえば私の生徒さんでもみんないろんな人生を抱えていて。そういうときに自分ができることは、ご飯を食べにおいでと声をかけるくらい。あとは話を聞くことくらいしかできないですけど、そういう時の会話って救われたりとかしないですか?私はそういう時間で人生が豊かになってきた気がするんです」。
「だから私のサロンやキッチンはいつも、お料理やお酒、そして会話を楽しむ人で溢れてますよ。でもそういう時って、会話が終わる頃には、テーブルコーディネートがどうだったかとか、そんなに覚えてないでしょ?その人と過ごす時間がやっぱり主役。だから私にとっては、料理もテーブルセッティングもそのための“ツール”なんです。でもどうせなら自分の好きなものを並べます。そうすると自分が楽しい。その気持ちがやっぱりテーブルセッティングにも料理にもお花にも表れるんじゃないかなって」。
カトラリーレストはパリの蚤の市で買ったお気に入り。
人にどう思われるかより、自分がどう思うか。
自分の好きなものを相手に差し出すのは、一歩間違えば好きの押し付けにもなりかねない。でも田代さんの空間には、それが感じられない。それはもしかしたら田代さんが相手に対して、わかってほしいとか喜んでほしいとは思っていないからなのかもしれない。
「それはそうかもしれないですね」と言いながら田代さんはテーブルに目をやった。「私、自分の用意したテーブルコーディネートを嫌いって言われてもそんなに気にしないんです。そんなことはどうでもいいことですもんね。でもそんなふうに思えるようになったのもパリのおかげなんです」。
「パリに渡るまではこれでも繊細な性格だったんですよ。でも29歳でパリに行った時にね、私はまだ独身なんですってしょっちゅう口にしていたら、パリの方に『独身独身って何度もいうけど、何か問題でもあるの?あなたが幸せだったらそんなことどうでもいい』って言われて。自分の人生、楽しんでなんぼ、人と比較するんじゃなくて自分が幸せだったらそれでいい、って思えるようになりました」。
テーブルも人生も仕上げるのは自分。
田代さんは自らをデコラリストと呼ぶ。装飾 Décoration、お花 Deco Fleur、芸術家 ur Artisteからイメージした造語だそう。そこには装飾・デコレーションへの思いがつまっているのだと教えてくれた。
「テーブルって結局人が集まって会話をする場所なので、別にお花なんかなくてもいいわけで。でもせっかくだから季節を楽しもうよ、ってデコレーションする。人生だって同じ。デコレーションが大事だと思っています。いいことをいいと思うのも、悪いことを転換するのも自分次第。だから自分の人生をより楽しく豊かにするために、自分でデコレーションしていく。自分の好きなものに囲まれて、自分の好きな人と時間を共有して、自分で作り上げていくものなんじゃないかなって思うんです」。
人との出会い、そのひとつひとつの点を大事にしてきたからこそ、点と点がつながって、線になる。田代さんの生き方は、そんなふうに見える。 田代さんがふとつぶやいた。「人生すべてがおもてなし。そう思えると、人生がより深くなっていくんじゃないかなって。でも私もまだまだわからない。答えを追い続けています」。
(なるのだ編集室 桂知秋)
花と料理とテーブルデコレーションの教室「La Posh(ラ・ポッシュ)」主宰
12月18日神戸市生まれ。
大学卒業後、勤務した株式会社ワールドを退職後、ベルギーにて世界的なフラワーデザイナー、 ダニエル・オスト氏に師事する。
その後フランスへ渡り、パリで人気のフローリスト、斎藤由美、アレックス・カンビ、カトリーヌ・ミュラー各氏に師事。
帰国後コルドン・ブルー神戸校で料理、また二木榮海氏のもとでテーブルコーディネートを学ぶ。
現在もパリに1年に何度も足を運び勉強を続けるかたわら、神戸の自宅サロンにて多くの生徒さんに花、 料理を含むテーブルデコレーションを指導している。
また、ウェディングプランナーとして結婚式全体トータルでのプロデュースや、フローリストとしてもホテルやレストランで活躍中。