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2022.10.17
売場ニュース
周辺の小学校との統合に伴い、2015年に惜しまれながら閉校した兵庫区の旧湊山小学校。地域の拠点となるような再生プロジェクト案を神戸市が公募し、採用された施設が『NATURE STUDIO(ネイチャースタジオ)』として2022年7月にグランドオープンしました。都市での生活と自然との距離をより近くすることをコンセプトに企画され、学童や就労支援施設などの地域を支える機能に加えて水族館やハーブショップ、ニジマス釣りを楽しめる池やクラフトビールの醸造所などが入る複合施設になっており、今後さらに高齢者福祉施設や医療機関、レストランが入る棟が建設予定です。
この再生プロジェクトを手がけた村上さんはこれまでも東遊園地活用『アーバンピクニック』や三ノ宮駅前の三宮ターミナルビル跡地での『ストリートテーブル』など神戸の数々の活性化に関わられた実績の持ち主。そんな村上さんに『NATURE STUDIO』にこめた想いと変化を続ける神戸の街への期待を伺いました。
神戸の街への関心。きっかけは2度の震災。
現在は実家の建築会社を継いで神戸でさまざまなプロジェクトに関わっていますが、街に興味をもったきっかけは大学卒業間近に起きた阪神淡路大震災です。それまでは、「神戸はおしゃれな街だね」と日本のいろんなところからいい印象を持たれていた街がめちゃくちゃに壊れていることを目の当たりにしてとても残念に思ったことが印象に残っています。大きな被害を受けて犠牲になった方々のためにもいい街にしたい、とその時思ったんです。
ただ、実際に神戸の街に関わるアクションを起こしたのは東日本大震災が起きた後になってからです。11年の東日本大震災が起こったときに改めて振り返ると自分が何もしてこなかったということに驚きました。95年に自分が流した涙はなんだったのかと。
そこで自分なりに今からでもできることは?と思って立ち上げたのが『神戸モトマチ大学』でした。『神戸モトマチ大学』では神戸を拠点に活動するステキな人を講師に招いて市民とのつながりを作ることで神戸の街を考えてアクションする人を増やしたい!という思いからスタートしてもう10年以上が経ちます。これまでも参加者同士がコラボして企画したり一緒に働いたりするなど、たくさんのつながりが生まれていて嬉しいですね。
今回の再生プロジェクトに携わらせてもらった湊山小学校は、廃校後にどのように活用していいかわからずみんなが頭を悩ませていたところです。少子高齢化が進む地域であるので、公募時には集客施設として活用できるイメージをしていた人は実は少なかったのですが、まずは人がきてくれるような場所にしないと廃校を活用させてもらう価値はないな、と思って水族館や醸造所、ハーブショップなどの集客施設も含めた提案をしました。
木でできたフレームが特徴的なNATURE STUDIOの外観。フレームの間から育った緑がどんどん出てきて外観も時とともに姿を変えて育っていくという発想。
実は湊山小学校は私自身の出身校でもあるんです。昔母親とここの市場行ったなとか、ここに小児科あったよねとか、エリアのことはよく覚えています。地域の方も住んでいた頃のことを覚えておられて声をかけてくれる方もいました。エリアを知っていた分、「いい場所なんだから再生するポテンシャルはちゃんとある」と信じやすかったかもしれないですね。
たまたま湊山小学校は自分の母校ではありましたが、よく考えると、日本中で同じように廃校になっているところはたくさんあって、そのほとんどはここよりも人を集めるのに苦労するような場所です。一方でここは車で10分ちょっとで三宮に行けるし、20分圏内で考えると何十万人も人が住んでいる。そんな環境で人が集められないようでは全国の廃校はどうするねん!と、どこにでも起こりうる普遍的な課題に取り組む視点を大切にしながら進めました。
自分でもまさか水族館を作ることになるとは思いませんでしたよ。笑
「小学校の理科室や職員室だった場所が水族館になったらしい」と色々なところで取り上げていただいていますが、水族館も最初からありきで動いたわけではなく、この地域にわざわざ来てみたいと思うようなインパクトがあるものは?と考えた結果行きついた答えでした。
初めは地域のために何かできないかと思い、ご高齢の方が多いのでデイケアやヘルスケア関係を中心に学童や保育園もできるようなものにしたいと思ったんですが、そもそも少子高齢化が進んでいたから廃校になったわけなので地域ニーズだけを考えてしまうと地域とともに沈んでしまう。
地域シンボルの学校を再活用するには意味のあることをしたいし、小学校の跡地ということもあるので来てくれたみんなに「新しいものを学べてよかったな」と思ってもらえることを色々と思い浮かべてみて、自然と水族館に行きつきました。
水族館は施設のスペース的に大きくは作れないが、人と生き物の距離が近くなれるようにと、しゃがみ込んで水槽を覗いて近くで見れるように水槽を低く設計したり、クッションに座ってじっくり観察できるように工夫されている。
アイディアは普通。あとは本当にやるかやらないかの違い
オープン後は休みの日も現場にきて駐車場の交通整理をしたりしています。場づくりってとてもローテクの世界なので、なんでも自分でやらないとわからないでしょ。
例えば来場者データをまとめた数字だけを見て家族連れが多いことはわかったとしても、その方が遠くから来てくれた方なのか近場の方も喜んでくれているのかって実際に現場に来てみないとわからないと思うんです。
校舎や運動場の面影を残す敷地。ニジマスのいる池の周りを駆け回る子どもたちやセンスのいいハーブショップでお買い物するカップルでとっても賑やか。
現場にいると気づくことも多くて、今日もビールから出る麦芽カスと釣り堀のニジマスから出るアラを使って液肥を作れないかと神戸大学の農学部の先生に相談に行っていたんです。そんなのって最初はお金が出ていくばっかりだと思いますが、野望としてこの辺りには空き家や空き地がたくさんあるのでそこを開墾して地域にもっと緑が多くなればいいな、と思っています。その空き地を開墾するための液肥として使えないかな?と思ったわけです。
出来た液肥を使ってハーブショップが地域の緑化を支援していくことで、NATURE STUDIOが地域の循環の拠点になれればと思っています。
アイディア自体は普通じゃないですかね。
それをあとは本当にやるかやらないかの違いだと思います。
敷地内には食べられる植物や香りを楽しめる植物を多く栽培している。敷地内の植物は自由に食べてよいそうだ。
給食室を見た瞬間、ここはビールだ!と即決。ビールをきっかけに遠方の人がこの場所を知ってくれるといいなという期待もあるが、それ以上に嬉しいのは地域の人が心待ちにしてくれていたこと。まだ作っている最中にも「いつできるん?」って勝手に入ってこられるのだとか。
企業の役割は『リスクテイク』。
神戸各地で再開発が続き、神戸阪急でもリニューアルが進んでいると思うんですがそこに携わる民間企業として大切なのは一言でいうとリスクテイクだと思っています。一般的に大企業や行政は投資に対しての成果をすごく問われるのでチャレンジしにくい文化があるのかもしれません。それでも、それぞれが投資できる体力の中でほんのちょっとでもリスクを負ってチャレンジしていくことが大切ではないでしょうか。企業規模を問わずチャレンジをすることで社会が動いていくようなことができるのではと思っています。
そしてリスクを負って想いを込めてやっていると大変なことも多いのですが良いこともあって、周りの人がその気持ちに賛同してくれて「人生かけて一緒にやりたいです」と言ってくれるような仲間が増えていくんですよ。それはありがたいことですね。
とはいえ、私たちもずっとリスクばっかり背負いたいと思っているわけではありません。(笑)
やってみないと得られないようなノウハウが確実についていると思うのでそれを今後は生かしていきたいと思いますね。
与えられた打席で、自分ができることを。
このように街に関わる活動をしていると、よく「神戸がもっといい街になっていくためにはどうしたらいいか?」と意見を求められることがあるのですが、正直、神戸が良くなるには?という視点では普段からあまり考えていないんですよ。昔はそんな思いで活動していたこともあったんですが、「次に何をしたら神戸がもっとよくなるか」ではなく「自分に巡ってきた打席を使って街にとっていいものはどうやったらできるのか」を必死に考えるようになりました。結局同じことを言っているのかもしれませんが発想の出発点が変わったという感じでしょうか。
今後も携わるその場その場のそれぞれ可能性を見出して、自分が汗をかいてできる範囲で良くしていくことで結果的に神戸の街が良くなればと思っています。
(なるのだ編集室 押谷友望)
1972年兵庫県生まれ。1997年京都大学大学院生態学研究センターを修了後、シンクタンクに勤務。その後、株式会社村上工務店へ転職し、現在は代表取締役社長。2011年より神戸モトマチ大学を設立。2015年より都心の価値向上をめざした東遊園地の社会実験「アーバンピクニック」を事務局長として実施。2023年春より東遊園地の拠点施設を設置運営する予定となっている。上述の社会実験を契機として、2016年に設立した一般社団法人リバブルシティイニシアティブは、JR三ノ宮駅南側にて期間限定のアウトドアホール「ストリートテーブル三ノ宮」を実施。現在は、湊山小学校跡地の再生プロジェクトに携わる。