[おうち時間を心豊かに] [Time of "Grace" 本館4階] [偏愛] [食]
2023.04.08
売場ニュース
日本の紅茶文化の先駆者である「ムジカ・ティー」。全国から紅茶愛好家が美味しい紅茶を求めて来店するという噂通り、訪ねた日も常連さんを中心に遠方の方も続々と来店していました。そんなムジカ・ティーがリニューアル中の神戸阪急本館4Fに新設される、華やかなおもてなしのシーンをイメージした売場[Graceful Table(グレイスフルテーブル)]の一角で紅茶の販売をスタートするということで3代目オーナーの堀江勇真さんにお話をお伺いしました。
日本の紅茶文化を引っ張ってきた存在だと聞くと、とても厳格な方なのかなと思いきや堀江さんはとっても気さくであたたかい方。「起きたらまず紅茶、出勤してスタッフと紅茶飲みながら準備、寝る前も紅茶」と語る堀江さんの溢れんばかりの紅茶愛をお伺いし、神戸阪急の売り場で出会える紅茶の楽しみを伺いました。
3代目オーナーの堀江。世界各国の紅茶、ティーポット、書籍などが店内に所狭しと並ぶ。
日本で初めてティーポットで紅茶を提供。
音楽評論家でもあった私の祖父が「ムジカ喫茶店」を大阪堂島に開いたのがスタートです。当時はレコード盤が非常にまだ高い時代だったので気軽に楽しめるお店を作りたいということで音楽喫茶を開きました。ですので店名のムジカはラテン語で「音楽」という意味の「MUSICA」が語源です。その後、父が1964年に紅茶専門店としてリニューアルしました。当時はムジカというブランドはないですから、リプトンやトワイニングなどをラインナップしてティーポットで提供していました。ティーポットで紅茶を提供した喫茶店はうちが初めてだったと聞いています。店名が知れるにつれ、スリランカを中心に紅茶を仕入れてオリジナルのラインナップを徐々に増やしていったのが今のムジカブランドにつながっています。
今ではティーメニューの定番になっているチャイなどのスパイスティーも、ムジカが日本で初めてメニューにした当時の先進的な取り組みだと言われています。実はこれには裏話があって最初のお店の建物のオーナーさんがインド人だったので香辛料が手に入りやすく、そのオーナーさんに本場の作り方を教えてもらったそうです。その他にも、紅茶のための野点や世界の紅茶パッケージ展の開催などなど、紅茶に親しんでいただく取り組みを継続して行ってきました。
61年続いた堂島から芦屋への移転。
61年大阪でやってきましたが、2013年に芦屋に移転しました。昔は日本でも「喫茶文化」っていうのが盛んで、堂島の周辺に勤めている人たちはお昼を食べたらよくお茶をしていたんです。北新地も近いので政財界人が文化や音楽を楽しむ場所でもあったのですが、だんだんとそういう余裕がある時間の使い方をする人が減ってきてしまったんですね。それでもう飲食はやめようという話になりました。どこに移転しようかと探していたところ、以前から芦屋に住んでいてこの物件が出ているのは知っていたので、1回見るだけ見てみるかと内覧させてもらいました。国道沿いで周辺にあまりお店もないので私たちには不向きかな、、?と思っていたのですが想像以上に天井が高くて、入ったとたんここで販売店をするイメージがパッと湧きました。
紅茶の香りに囲まれてとても落ち着く店内。
芦屋の住宅街にTea Saloon MUSICA(ティーサロン ムジカ)が誕生。
まずは茶葉の販売専門店として移転してきたのですが、お客様から「紅茶を美味しく飲める店がないから飲食店も再開してほしい」というありがたい要望をたくさんいただきました。販売専門店内でまずは月に1回「1日カフェ」を実施しつつ、ムジカらしくティーサロンができる場所はどこかとこだわって探したんです。そんな時にたまたま「旧宮塚住宅」という石造りの歴史的建築物を補修してアトリエなどに再利用するプロジェクトがあると知り応募しました。人気の建築物ですから倍率も高かったのですが選んでいただきティーサロンをオープンしました。たまたまですが建物の歴史とうちの歴史が一緒なんですよ。どちらも昨年で70年。なんだかとても縁を感じています。
ここはビジネスの街の堂島とは違って、住宅街にあって暮らしに寄り添っているので、ティーサロンの庭で紅茶の葉を肥料にお花を育てたり、ベビーカーでも入りやすいように店内を配置したり、テラス席も設けています。堂島のころはビジネスマンがONの時間に来店いただくことが多かったのですが、ここは周辺の住宅街に住んでいる地域の方やインスタを見た若いカップルや女性の方たちに使ってもらっているので、生活の中に自然と紅茶を取り入れていただくにはとても良い環境だと思っています。
登録有形文化財にも指定されている石造の建物。
香りも味もしないような薄い紅茶ではなく、本当の紅茶の美味しさをもっとたくさんの人に知ってほしい
ずっとコーヒーばっかり飲んでた人がうちの紅茶を飲んで、「あ、紅茶ってこんなに美味しかったんや」って再認識して紅茶にはまっていく例はたくさんあります。私自身も日本では本当に美味しく紅茶を出してくれるお店がとても少ないなと思っています。
昔、父がある雑誌の取材で喫茶店100軒回ってどういう紅茶の淹れ方をしているかっていうのを取材しているのについて行ったことがあるんです。すると大体は茶漉しに茶葉を入れてお湯を入れたカップに数分浸して取り出すんです。そして同じ茶葉で何杯か入れているうちに色が出なくなってきたら、やっと茶葉をとり変えるような淹れ方をしていました。それにレモンを添えてレモンティーとして出している。それでは紅茶の色は出てるけど味は全然出ていなくて、レモン水出しているみたいなものです。
渋みが出ると美味しくないと思われている方も多いかもしれないのですが、渋みもないと紅茶の香りだけでボディーがありません。紅茶は香りと渋みも含めた味全体のバランスを楽しんでもらうものなんです。
昔から全人口の5パーセントぐらいしか紅茶を飲んでいないって言われてるんですけど、たぶん今でもそんなに増えてないと思います。やっぱり紅茶を飲んで感激する人が少ないので家でも飲んでみようと思わないのだと思います。まだ95%の日本人が美味しい紅茶に出会わずじまいなんですよ。
ほんとにね、「紅茶って本当はこんなに美味しいもんなんだよ」っていうのをもっともっと言いたいです。
暮らしの中で心豊かになるツールとしての紅茶を神戸阪急から発信。
神戸阪急本館4階の「Graceful Table(グレイスフルテーブル)」では、ただ茶葉を並べているだけだと面白くないなと思っています。暮らしの中で心豊かになるツールとして取り入れてもらうために、ムジカのスタッフが店頭に立ってお好みに合いそうな茶葉の紹介や美味しい淹れ方、残った茶葉の活用方などの紅茶文化の楽しみ方をたくさんお伝えしたいなと思います。
神戸は昔から外国人の居留地があった影響で海外からの移住者も多くてハイカラな文化が根付いていたこともあり全国の紅茶消費1位だと言われています。もともと紅茶が好きな方にも、今まであまり飲んだことないなという方にも紅茶を親しんでもらえて「紅茶ってこんなに美味しいんだぞ」というのを発信する場所にしたいですね。
美味しい紅茶とお菓子で「家族の楽しい時間」が増えるお手伝いをしたい。
そして紅茶はただ美味しく飲むだけではなく、コミュニケーションのツールにもなると思っています。最近は家族で家にいてもそれぞれが別々に時間を過ごす人が増えていて、コミュニケーションが減っているような気がしているのですが、紅茶と神戸のお菓子で家族の会話の機会が増えると嬉しいですね。「子どもの頃、お父さんとお母さんがケーキを買ってきて家族みんなで紅茶を飲みながら話して楽しかったな」という思い出が残ればそのお子さんもきっと紅茶が好きになりますよね。笑
ムジカが時代とともにチャレンジしたいこと。残したいこと
昨年おかげさまで創立70周年を迎えまして、引き続き紅茶を美味しく飲んでいただけるように活動していきたいという想いに変わりはありませんが、時代を読んで新しく変えていくというようなことは考えていません。
例えば最近タピオカミルクティーが流行りましたよね。「流行ってるからタピオカミルクティー出します」とか、「今度はフレーバティー流行ってるから新しいフレーバー作ってみたので販売します」とかになるとそれはムジカと違うと思っています。
本来紅茶はシンプルに簡単に淹れられて美味しいものなので、ムジカのスタイルってとてもシンプルなんです。そのシンプルな筋が通ったところに少しだけ新しいエッセンスを加えながら新しい時代へと成長することを目指しています。何でもかんでも新しいものを取り入れていくとムジカがムジカでなくなると思っています。
これからも紅茶を日常に取り入れていただくために、シンプルに素材のいいものをリーズナブルに提供していきたい。流行を追うのではなく紅茶文化を定着させるのがムジカの役割だと思っているんです。
やっぱりそこは「ムジカ」なので。
1962年生まれ。
辻調理師専門学校卒業後、洋菓子店勤務後、父の仕事を手伝い始める。現在「エコール辻大阪」で講師を務めるほか、小学校、高校で紅茶の入れ方を教えるなど食育にも携わる。
2013年から3代目として父の意志を引き継ぎ、芦屋の地で日常で楽しめる紅茶の魅力を伝え続けている。NO TEA ! NO LIFE !