[「なるのだ。」の舞台裏] [ローカルSDG’s] [街のストーリー] [食]
2024.02.14
売場ニュース
夜風に吹かれながら手にはワイン。心地よい音楽が流れる中で、新鮮な地元食材を使った料理を味わい、語り合う——そんな心躍る時間を、日常的に楽しむことができれば、私たちの暮らしはもっと豊かになるはずです。
2023年秋、神戸阪急本館屋上に設置されたのは、屋台が連なるようなテント。そこで約1か月間、「KOBE FOOD CULTURE FEST. imuyak（イムヤック）」が開催されました。海外の音楽フェスやアジアリゾートのような空間で、神戸の食と自然派ワインを体感できるイベント。「え？ここって百貨店の屋上？」と従来のイメージを大きく変える取り組みを共にしたのは、新感覚のビアガーデン「imuyak」を企画するイムヤック共同事業体の家弓雄次（かゆみゆうじ）さんと、「神戸の食材に出会って、味わうような場をもっとつくっていきたい」という神戸観光局、神戸市経済観光局農水産課課長の牧野考志さん。そして「神戸の街をもっと楽しくしたい」という神戸阪急です。
この「屋上でのチャレンジ」にそれぞれが込めた想い、広がる可能性について伺いました。
神戸の街はまだまだおもしろくなれる。
駅前にあり、人が行き交う場所である百貨店は、街にとっては“資源”でもあります。だからこそ「さまざまな出会いやコミュニケーションの場にしたい」というのは、イベントの企画を担当した神戸阪急の川畑と池上。そのために、まず活用したかった「屋上」で、今回のイベントが実現しました。
「個人的には神戸阪急の屋上に公園のような空間をつくりたい」という川畑。
|
|
「神戸のお客様の生活を豊かにすること」を掲げてリニューアルする中で、「神戸の阪急」としてこの街に存在する意味は「百貨店であること」以外にもっとあると。でも自分たちだけでは難しいというなかで、今回、神戸で活躍されている家弓さんや市政のみなさんと一緒になって、屋上でコミュニケーションが生まれる場づくりや神戸食材の発信ができたのは大きな一歩でした。 |
「私自身も戸惑いの連続でした」と語る池上。
|
|
今回、“百貨店のビアガーデン”というイメージで来られて「あれ、何か違う」というギャップを感じたお客さまが多くおられたと思いますが、実は、館内の従業員も同じです（笑）。でも、様々なカルチャーが混在するイベント空間や出店者が日によって変わるなど、はじめは戸惑っても、積み重ねていけば「いろんな要素が詰まっているおもしろいことなんや」って理解できると。またイベントで初めて来られた方にも、百貨店の各フロアのご提案に触れていただくなど、いろんな出会いになればいいと思っています。 |
|
|
そういえば、イベントに来られていた20代～30代のお客さまも多くて、みなさんめちゃくちゃおしゃれでしたね（笑）。 |
百貨店の屋上を変えたい。きっと変えられる。
今回神戸での初開催になったimuyakは、お酒や料理だけでなく、DJやライブなどの音楽演出やアート展示など様々なカルチャーが集まる“サーカス型ビアガーデン”。市内の店舗を中心に日替わりで多数のレストランやカフェがバリエーション豊富な料理を提供しました。「お祭り屋台を見た時のような、高揚感を意識しています」と話すのは企画を担当する家弓さんです。
カルチャーとして自然派ワインに魅力を感じるという家弓。神戸生まれ。
|
|
僕は、常々『何をしたら楽しいか、何をしたら幸せか』を考えているんですけど、記憶の中から思い浮かぶことが多いのが“外での食事風景”なんです。子どもの頃だったらバーベキュー、大人になった時には、やっぱりビアガーデンですよね。真夏の屋上ビアガーデンといえば、暑くて汗をかいて、ぬるいビールに文句は言うけど不思議と帰らない（笑）。25歳から飲食店をしながら、自分が理想とする屋上ビアガーデンを思い描くようになって、その延長にimuyakの企画があります。 |
会場にはテーブル席のほか、カウンターを造作し、個性あふれるスタッフが接客するなかで「対話が生まれる仕組み」をつくっています。
カウンターに並ぶのは、自然派ワインのグラス
|
|
カウンターに来たら、スタッフや隣の人としゃべりますよね。そこからお酒や料理のことだけでなく、音楽やアート、ファッションなどイベントに関わる何か好きなことで会話が生まれるんです。共通の話題があれば、人との距離がぐっと縮まって、仲良くなるきっかけになる。そんなふうに『人との出会い』にもつながることで、屋上はさらに楽しい場所に変わります。 |
週末にはDJによる音楽イベントも。
近年人気が高まっている「自然派ワイン」。無農薬や有機栽培のブドウを原料に、酸化防止剤の使用を抑えるなど、極力「自然」に任せて作られ、ブドウ本来のフルーティな味わいが特徴です。今回、自然派ワインを目当てに来場され、知識や作法から自由になってグラスを片手にワイントークに花を咲かせた方も多くいました。
いろんな“楽しい”が散りばめられたこのイベント、開放的な屋上空間で「美味しいものを食べて飲む」だけなく、それぞれの“好き”を語り合う人の姿がありました。
神戸には「食」の魅力がいっぱいある。
期間中に日替わりで出店していたレストランなどの飲食店はなんと70店舗。お酒との相性もぴったりな料理にはさまざまな神戸の食材が使われていました。“野菜のバーニャカウダ”や“黒鯛のフリット”など人気メニューで地元食材の美味しさに感動したという声も。
「期間中は『現地確認』と称して毎日楽しんでいました」という神戸市の牧野（写真左）。
|
|
実は神戸には漁港や船溜まりが7つもあるので、 鯛や鱧などの魚も多く水揚げされています。長田区の駒ヶ林では朝の競りが、垂水では昼の競りがあります。 |
|
|
僕が人生で一番美味しいと感動したハマチは、垂水で獲れたものでしたよ。 |
|
|
そうなんです。神戸には豊かな畑もあれば、海もあるんですけど、意外にその魅力は知られていないんです。 |
神戸市では、東遊園地で開かれている「ファーマーズマーケット」をはじめ、神戸食材の魅力に気づいたり、出会ったりできるような取り組みを進めています。
|
|
神戸の玄関口の象徴でもある神戸阪急の屋上で、“生活者”として夜に自然派ワインを軸に地元食材に触れる。そういったことの積み重ねが“神戸の食文化”を作っていくと思います。 |
「食」といろんなものを組み合わせれば、屋上の可能性は広がる。
「こんなに楽しいのなら、ずっとやってほしい」「次はいつやるの？」という声をたくさん受けて、それぞれに手ごたえを感じた今回の挑戦。どうすれば屋上はもっとおもしろい場所になるのでしょう。
|
|
いろんなものをミックスしたいですね。例えば蚤の市や、アンティーク家具市、そういう大きなマーケットと一緒にimuyakをやるんです。家具市の横でカウンターに集まるのは、おそらく家具好きしかいないでしょうから、すぐに仲良くなれる（笑）。レストランも市内だけでなく全国からいろんな店が出店したら、地元の人も、観光で来た人もみんなが新たな出会いを楽しめますよね。 |
|
|
神戸って良くも悪くもまとまっているんです。それは強みでもあるんですが、家弓さんのように、輪を広げよう、繋がろうと、外側に向かって開かれた感じになっていくのも、すごくいいと思っています。 |
神戸の街をもっとおもしろくする百貨店になりたい。
イベント期間中、屋上でたくさんの人たちが出会い、ゆるやかにつながっていく様子を目にした川畑と池上。「ひととひととの関係をつくる百貨店」としての今後が見えてきました。
|
|
神戸には憩いの場や夜を楽しむ場所が足りていないと思います。僕らは百貨店ですが、これからも街のみなさんと、神戸が大好きな従業員も一緒に“にぎわいの拠点”をつくっていきたいですね。 |
|
|
三宮には繁華街、飲食店もいっぱいあるのに、イベントに来られたお客さまに「すごくよかった」と喜ばれたんです。神戸では文化として“オープンスペース”が望まれているんだなと感じました。 |
「街のおもしろさって何だろう」と考えた時に、自然や街並み、食やカルチャーなども大切ではあるけれど、それを人が語り、共感して、つながることが「おもしろさ」なんだと改めて感じました。自分の「好き」をしっかりと持っている人が多い神戸。つながる場が増えれば、もっともっとおもしろくなる気がします。
KOBE FOOD CULTURE FEST. Imuyak
過去に姫路で2回開催されたimuyakが、2023年10月11日から11月5日まで神戸で初開催。コンセプトは「人との出会いが人生における最上の喜び」。食で人々がにぎわうまち「食都神戸」として展開する、神戸の食文化や食材を丸ごと味わえる『KOBE FOOD CULTURE FEST.（コウベフードカルチャーフェス）』プロジェクトの一環で開催されました。
（なるのだ編集部 松本理恵）
 |