[まちの元気をつくるひと] [街のストーリー]
2024.03.25
売場ニュース
「三宮が変わる」と、ちらほらと耳にするようになった。もっと便利になる、にぎわいが生まれる、神戸らしくなる……。でもなぜか、ちょっと遠い話に感じて、うまくイメージできない。
ただ、たしかにこの数年で少しずつ三宮は変わっているのだと、ふとした瞬間に気づく。久しぶりのお店に向かうとき、友達に付き合っていつもと違う道を通るとき、あるいは通勤路の白い工事の覆いが外れた朝。
いつの間にか、サンキタはテラス席に美味しい笑顔があふれているし、南にこどもの図書館ができた東遊園地は芝生を駆けまわるちびっこの声があふれているし、体育館ができた磯上公園とみなとの森公園のあいだは颯爽と走りぬけるランナーの汗があふれている。
これから、三宮はどうなるのだろう? 神戸市職員として都心再整備プロジェクトを率いる津島さんと、三宮の玄関口でリニューアルプロジェクトを行ってきた神戸阪急店長・杉崎さんに、お話を伺いました。
神戸市役所都市局都心再整備本部事業推進担当部長
岡山県出身。平成4年4月、神戸市役所入庁。建設局で道路の計画・設計等の部署を主体に、阪神淡路大震災における復興計画策定、医療産業都市構想の推進、大阪湾岸道路西伸部の事業化などを担当。 平成30年4月より、都市局都心再整備本部部長として、三宮再整備における公共空間整備や民間プロジェクトの調整、景観デザインコード等を牽引する。
株式会社阪急阪神百貨店 執行役員 神戸阪急店長
大阪府出身、芦屋で育つ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1993年4月に株式会社阪急百貨店(現エイチ・ツー・オーリテイリング)に入社。2017年、本格的リニューアルを行った西宮阪急店長として「暮らし方もファッションの一部」というコンセプトを打ち出す。2019年から神戸阪急の営業統括ゼネラルマネージャーに着任。現在、店長として“Kobe Hankyu Style”を打ち出しての大規模リニューアルを牽引する。
「三宮が変わる」って、本当ですか?
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あの、最近あちこちで「三宮が変わる」と聞くようになったんですが、本当のところはどうなんでしょう。今後のスケジュールを、1分で教えていただけませんか? |
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1分で(笑) そうですね、まずはここまで、2021年に阪急神戸三宮駅北側エリアの再整備から始まり、2022年に中央区役所やこども図書館「こども本の森」や磯上体育館ができて、2023年には東遊園地北側園地がリニューアルオープンしたところです。 |
三宮の広いエリアで2029年にかけて様々な変化が生まれる予定
「都心・三宮再整備 KOBE VISION」
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こうしてあらためてお話を聞くと、神戸阪急が取り残されないようにせなあかんと、ますます思いますね。私たちも2022年3月から約1年半にわたって大規模な改装工事をしてまいりまして、「都市型百貨店としての品揃えの強化」と「独自性ある地域密着型のライフスタイル発信」をテーマに、全館の約90%を改装するリニューアルを完了させたところなのですが、正直なところ、まだまだだと感じています。 |
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でも、神戸市による三宮再開発と、神戸阪急のリニューアルって、何か関係あったりするんでしょうか? |
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もちろんあります。行政としてはまちづくりに「道路」など公共空間の整備で関わることになりますが、道路だけを整備してもまちに活気が出るわけではないですよね。まち全体で一体的に良い雰囲気にしていくには、やはり官民連携が欠かせません。三宮を魅力的にするためには神戸阪急さんとの連携は非常に重要だと考えています。神戸市側からの一方的な言葉になっているかもしれませんが。 |
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いえ、神戸阪急は三宮駅前の本当にいいところにありますので、まちづくりの視点でも頑張らなあかんと、私たちもいつも思っています。やはり大丸さんの震災後の開発は素晴らしくて、元町・旧居留地で素敵なまちづくりをされてきた。僕らは震災後、そごう神戸店時代に神戸市さんからの依頼でできるだけ早期での営業再開を優先した経緯などもあって、まちづくりという視点ではできていないことがたくさんあります。 |
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私は個人的に、やっぱり神戸の玄関口は三宮で、そして駅から地上に出ても地下を通っても、その玄関口に神戸阪急さんがあるんだなと、毎日感じています。オフィスが三宮の南側なので、どうしても目に入ってしまうんです(笑) 三宮の駅から出た瞬間の光景や雰囲気に、「わぁ、素敵!」と思えたら、たしかにうれしいですね。 |
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本当は神戸阪急のいまの白い外壁の下に、1933年に建った当初の建物が残っているんです。これが昭和モダンというか、実に神戸らしい、本当に素敵なレンガ建築なんです。もし湯川さんが見たら、絶対に「わぁ、素敵!」となりますよ。 |
阪神三宮駅ホームでは、竣工当時のレンガ壁の一部が見られる
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そこで、外壁を剥がしてこの建築が見えるようにと思って試算したのですが、かなりの経費がかかるということで、さすがに現時点では難しいと諦めた経緯があります。でも、まちの景観を考えるとこの外壁の部分が非常にもったいないので、なんとかできないかと考え続けているんです。すぐには工事ができなくても、たとえばプロジェクションマッピングなど、白い壁だからこそできるアイディアだと思うのですが、規制があってなかなか難しいと聞きますし。 |
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たしかに外壁は看板と同じで、どうしても交通安全の確保の観点からの規制があります。ドライバーの注意が散漫になっては危ないですから。でもすべての看板が不可というわけではないので、どのようなプロジェクションマッピングなのかを具体的に伺って、担当部署に確認しながら進めていただければ、可能性はゼロではないと思いますよ。 |
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ほんまですか! それでしたら、ぜひチャレンジしてみたいです。 |
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おお! まさにこれが、「官民連携によるまちづくり」だ! なんとなく、「それぞれができることを探して、一緒にまちをつくっていく」というイメージが、いま目の前のおふたりの会話からわかりました。たしかにその方が、まちが素敵になっていきますね。プロジェクションマッピング、実現するのかな。楽しみにしています。 |
2023年夏、神戸市と、神戸阪急が所属するエイチ・ツー・オー リテイリング株式会社は、都心三宮からはじめる持続可能なまちづくりを目指す包括連携協定を締結。その一環である「まちに訪れる人々の回遊・交流の活性化」として、この冬はじめてクリスマスマーケットを開催した。
左の写真は2023年12月15日のライトアップ初日の様子。右の写真は、対談の日に杉崎店長の資料にあった「10年後の街全体に広がるクリスマスのイメージ」。
「復興」どころか、「復旧」だけでも大変だった。
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三宮や神戸のまちにとっては、やはり阪神・淡路大震災が、すごく大きな出来事になるかと思います。私は「その後の神戸市民」なので知らないのですが、おふたりは震災前の三宮や神戸もご存知だったりしますか? |
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僕は実家が芦屋の浜の方です。なのでもちろん三宮は、小さい頃からしょっちゅう訪れていました。阪神間の人間だったらみんなそうかと思いますが、すごくおしゃれで、いいまちだというイメージしかありません。 |
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あの倒壊はやはりショックでしたね。よく覚えています。 |
震災直後のそごう神戸店/震災直後の神戸市役所2号館
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私は震災から10年以上経った神戸しか知らないので、みなさんから何度お話を聞いても、本当に信じられない思いです。でもおふたりは若い頃にその光景を実際に見られたということですよね。えっと、20代の…… |
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私は、25歳の時ですね。 |
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あれ? ひょっとして1969年生まれですか。 |
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はい。 |
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あ、それなら同級生です。僕も25歳の時なので。 |
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えっ、そうですか! |
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わ、ではふたりが奇しくも同じ25歳の時に、そんな三宮、それまで憧れていた三宮をご覧になって。その後の復興というのか、今後はどうなっていくだろうと感じられましたか? |
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復興なんてとてもとても。当時はただただ、「三宮は壊滅した」と思いました。 |
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阪神・淡路大震災では建物の倒壊が多く、また六甲道や長田の大火事もありました。高速道路なども東海していましたし、私たちはとにかくインフラの復旧や住宅の共有などに走り回っていました。三宮駅周辺も建物の倒壊が多く、その「復旧」だけでも大変という状況でした。 |
1996年1月、震災約1年後のそごう神戸店
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行政としては、この震災時の借金を返済するまで大きなことはできないという状況が、本当に長く続きました。それで、みなさまにもよく言われるのですが、大阪も京都も、あるいは姫路や明石も駅周辺がどんどん再開発されていくなかで、三宮だけがいつまで経っても変わらない…ということになっていたんです。しかしさすがにこれではいけないと、神戸市の財政状況が改善した2015年に三宮周辺地区の再整備基本構想を出した、という経緯です。 |
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私は2018年から兵庫県の非常勤職員になったのですが、当時まだ知事と管理職は阪神・淡路大震災の借金による給与カットが続いていて、「えっ、まだ“震災“は終わってなかったの!」と本当に驚いたことを思い出しました。その時で、震災から23年後。日本で初めての近代的な大都市での大型災害だったため、当時は国による支援の仕組みが十分でなく、地元自治体の負担が非常に大きかったのだと聞きました。 |
それぞれの「神戸らしさ」
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今日はぜひおふたりにお伺いしたいことがあります。「“神戸らしさ”って何だろう?」という質問です。 |
実は1カ月違いの同級生とわかったふたり。「あの頃」を経ていま、三宮のまちづくりの先頭に。
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個人の意見で大丈夫ですか? 私の場合、「神戸らしさ」という言葉で真っ先に思いつくのは、やはり都会でありながら自然が豊かで、それぞれの人の生活が、まちと自然のすぐ近くにあるところです。これは、まちづくりにも生かされています。 |
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フラワーロードは、もともと生田川ですよね。その6階からフラワーロードを眺めていて、たとえばここが川に戻ってそこに海から船が入ってきて百貨店に横づけしたらすごく素敵やなぁと、たまに空想してしまうんですよ。それも、そもそも自然に恵まれたまちの記憶がさせるのかもしれないですね。 |
神戸市役所都市局都心再整備本部にある、整備後の三宮ジオラマ
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最後に、おふたりにあらためてお伺いしたいことがあります。あのですね、ここまで話してきておいてなんですが、「まちづくり」という言葉が、どうしても他人事なかんじがするんです。今日のお話にあったように、2030年には都心・三宮再整備が大きな節目になるとして、さらにその先、たとえばいまから10年後くらいのある1日、おふたりはどのように三宮で過ごされたいですか? |
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そうですね、非常に個人的な話でよろしければ、私の場合は仲の良いメンバーと一緒にまちをフラフラと… |
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メンバーというのは? |
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サンバチームです。30名くらいのチームで、神戸まつりなんかにも出ているんですよ、私は楽器で。もうずっと、阪神・淡路大震災の直前くらいから続けていまして、とても仲が良いんです。 |
サンバチームのことは庁内でも有名だそう。神戸まつりをチェック!
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私の場合は……そんなおもろい話ではないですよ? フラワーロードの、車が通らない歩道のベンチで、パートナーと手をつないで、美しいまちを見ながらぼーっと座っている光景を思い浮かべました。赤いコートとか自分のおしゃれをして、そして、自分はこう見えてもお酒は一滴も飲めないんで(笑)ジンジャーエールでも飲みながら。 |
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そこに、津島さんがチームのメンバーと東遊園地で演奏している楽器の音とか聴こえてきたりして。 |
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たしかに、僕が思い浮かべていた光景には、ベンチの僕たちだけではなくて、いろんなひとがいました。三宮という緑豊かなまちで、道行くひとが思い思いのおしゃれをしていて、芸術があふれている。それぞれが自分が楽しいことを、自分のためにしている。 |
今回は映っていませんがパンツの裾幅や靴が、さすが百貨店のおしゃれ!
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(深く頷く)はい。「『ひと』が中心のまち」、なによりこれが都心再整備の最大のコンセプトです。三宮を、音楽・グルメ・アートなど非日常空間を回遊してめぐっていただける「人が主役の居心地の良いまち」にしていきたいと思っています。 |
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たしかに。私たちのグループでも、たとえばうめだ阪急の場合は周囲が高層ビルに囲まれていて、生活との接続というのはありません。いま百貨店業界としてはインバウンドと富裕層向けの戦略をと言われていますし、それはそれでいいんですが、神戸の魅力というのはおそらくそこではないですよね。 |
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神戸が「日常を良くしていく意識をもっている洗練されたひとたち」のまちだから、「様々なひとが、それぞれ自分らしくいられる」まちになるというの、めっちゃ素敵ですね! それならば、自分なりの「神戸らしさ」があってもいいのかもしれないですね。 |
「三宮」にちなんで、三本指ピース!
(なるのだ編集部 湯川カナ)