英国カントリーサイドのクリスマス~"マルド・サイダー"って何だろう?~

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

英国バッキンガムシャー在住の英国政府公認ブルーバッチ観光ガイド 木島・タイヴァース・由美子さんに、"英国のクリスマス"を取材していただきました。

今回ご紹介するのは、木島さんの住むバッキンガムシャー州の町のクリスマス・ディスプレイとクリスマスマーケットです。

私の住む町でもクリスマス・ディスプレイが行われています。毎年この時期はゆっくりとディスプレイを見ながら散歩するため、ついつい時間が長くなってしまいがちです。


Q:(3枚目)リースは壁にかけたりもするんですね。そしてレンガの壁が、雰囲気があって素敵です。バッキンガムシャーの町は、レンガつくりのお宅が多いのですか?

木島さん:リースは通常、ドアにかけるものという認識です。でも決まりはなく、どこにかけても疑問に思うことはありません。こういった感覚は、英国的ですよね?つまり英国には伝統が多く残っていますが、個人の好みに合わせて飾るので、伝統に反していたとしても気になりません。
昔の煉瓦の家は、その地域で石が取れないところに多く見られました。産業革命がおこる前は煉瓦が高かったので、安い地元の石が建築に使われました。
しかし、産業革命で煉瓦が大量生産されるようになると煉瓦の方が安くなり、現在では石材の方がずっと高くなったので、比較的新しい家は煉瓦で作られる場合が多くなりました。

4枚目)
サンタクロースは煙突から入ると思いきや、このサンタは壁をよじ登っています。
そんな一風変わったディスプレイに『ここに住む人はきっと楽しい人なんだろうなー』と想像がふくらみます。

Q:以前イタリアに訪れた際、日本ではあまり見たことのないサンタクロースの飾りを見かけたのを思い出しました。英国では、どんなポーズが多いのでしょうか?

木島さん:サンタクロースのポーズは色々ですが、通常立っているか、ソリに乗っているか・・・・写真のサンタクロースは遊び心があります。
現在は暖炉のない家(=煙突がない家)が多いので、このサンタは窓から入ろうとして壁をよじ登っているように見えます。

1・2枚目)食料品専門店のディスプレイと陳列棚、3枚目)お店で販売していた"パネットーネ"


町でただ1軒の食料品専門店にも、クリスマスがやってきたようです。

Q:クリスマスならではの商品は、どんなものがありますか?

木島さん:クリスマス柄の缶に入ったクッキー、子供のためにクッキーに絵を描くキット、クリスマスハンパーなど。特に多いのはクリスマス柄のBOXや缶ですね。
この店の特別なパンも、毎年楽しみにしています。ドライフルーツや柑橘類果物のピール、スパイスで作られたもので、今の時期しか手に入りません。
今年も購入して食べましたが、とっても美味しかったです。

クリスマスイベントには欠かせない生演奏

先日クリスマスマーケットがありました。この町は、中世に定期市が開かれていた"マーケットタウン"です。
今でも週に1回と月に1回、地元の食料品が並ぶ"ファーマーズマーケット"が開かれます。

クリスマスマーケットは1年の中で1日だけですが、人口4,000人の町民が全員集まってきたかのような賑わいでした。
午後6時に始まるクリスマスツリーの点灯式が終わると、一斉に活気づいてきます。


Q:すごい賑わいですね!!この演奏されている人たちは、町の方ですか?

木島さん:そうです。と言っても、近くの町や村から引っ張られてきた人もいるはずです。
ロンドン中心部のような都会ではいつもどこかでイベントをしていますが、カントリーサイドではたまに開かれるイベントを、皆が楽しみにしています。
クリスマスマーケットは、1年で1番の大イベントです。

1・2枚目)マルド・サイダーを販売するボランティアの人々、3枚目)マルド・サイダーを作るためのシロップ


クリスマスの飲み物と言えば"マルド・ワイン"。
赤ワインに砂糖とスパイスを入れて暖かくした飲み物ですが、この日はワインの代わりに"サイダー(=林檎酒)"で造られる"マルド・サイダー"が人気で長蛇の列。
販売店は、地元のサイダー製造元「Rennies Winslow Cider」。
飲んでみるとマルド・ワインよりも飲みやすく、おかわりしてしまいました!冷えた体にスーッとなじんで、心も身体もポカポカです。

実はこのお店、ちょっと他と違うんです。
というのも、ビジネスを目的とせずに利益はすべて寄付。リンゴの収穫、サイダーのビン詰めまで、全員"ボランティア"。みんな楽しそうです。
話を聞いてみると「私たち全員が他の職業を持っていて、仕事をしない日にサイダーを作っています」と。

数々のアワードを獲得していて、味も折り紙つき。
2018年には英国サイダーチャンピオンシップのミディアムサイダー部門で600軒のエントリーの中から見事"1位"に輝きました。
私も今年のクリスマスにはマルド・サイダーを作ることにしました。
バスケットの中にある小さな瓶に入ったシロップをサイダーに入れて温めるだけ。簡単に美味しくできそうで、クリスマスの楽しみが増えました。


Q:自宅でマルド・サイダーを作るときの"コツ"はありますか?
木島さん:マルドワインにもいえますが、アルコールが飛んでしまうくらい熱くしないように気をつけています。中に入れるものは、スパイスなどすでに調合されているインスタントがこの時期には売り出されるので、それを使えば簡単です。


さて、3話にわたりお伝えした英国のクリスマスはいかがでしたか?
クリスマスの本当の意味は、皆でキリストの誕生を祝うというもの。
自分だけではなくすべての人が楽しく過ごせるようにという願いから、英国では1年の中で1番募金運動が盛んになるのもこの時期です。
私もマルド・サイダーを飲んだ後は、町のロータリークラブが行う募金運動に残ったコインをすべて入れて家路につきました。

<木島・タイヴァース・由美子 プロフィール紹介>


英国政府公認ガイドとして30年以上にわたって英国全土の観光案内をする。

2015年に英国の文化に特化したツアーの企画、
アドバイスを専門に扱うカルチャー・ツーリズムUKを設立。
現在は観光ガイドの他に毎月英国の観光、
文化に関してのオンライン・トークを実施している。
バッキンガム州で夫、愛犬の3人暮らし。
その他、雑誌や新聞に寄稿。著書に『小さな村を訪れる歓び』
『イギリス人は甘いのがお好き』がある。


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