英国“ホームとは何か?”を考える「ミュージアム・オブ・ザ・ホーム」(前編)

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

11月は、2021年6月にオープンした博物館「ミュージアム・オブ・ザ・ホーム」(Museum of the Home)について。

英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。


それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!


今回は3年半にわたる改築工事を終え、2021年6月にオープンした博物館「ミュージアム・オブ・ザ・ホーム」(Museum of the Home)に皆さんをご案内したいと思います。

場所はロンドンの中心から北東に約8キロのところにある、ハックニーという地域です。

写真:新しく生まれ変わった「ミュージアム・オブ・ザ・ホーム」博物館の入り口。

©Sophie Verhagen Courtesy of Museum of the Home


「ミュージアム・オブ・ザ・ホーム」は、聞きなれない名前かもしれません。

それもそのはず。改築前は、「ジェフリー・ミュージアム」という、17世紀から現代までの400年にわたる中流家庭の住まいを再現した博物館だったのです。

もともとこの博物館の建物は、1715年にロバート・ジェフリー卿の寄付金で建設された養老院でした。当時は56名の高齢者が住んでいました。


写真:1715年に建てられた養老院。


保存建築物に登録されている養老院の建物と、今回再開発された部分が一体となって「ミュージアム・オブ・ザ・ホーム」が誕生しました。


写真:昔の養老院の庭には今はベンチが置かれ、地元の人の憩いの場になっている。


1810万ポンド(約27億円)をかけて再開発された博物館はこれまでより80%広くなり、スタッフも50名以上に増えました。

その上、新たにホーム・ギャラリー(Home Galleries)も加わりました。

博物館には大きく分けて「ホーム・ギャラリー(Home Galleries)」、「時代と共に変化する庭(Gardens Through Time)」、「時代と共に変化する部屋(Rooms Through Time)」という3つのセクションがあります。

まず、「ホーム・ギャラリー(Home Galleries)」では、“ホームとは何か?”という問いかけから始まります。

ホームとは、個人によって違う存在であることを、過去400年の歴史を振り返って伝えています。

ホームとは家族の絆を深める場所であったり、宗教を持つ人にとっての祈りの場所であったり、難民には安全を保障する場所であったり…。

この地域に暮らす人々の実際の暮らしや経験に触れながら、時には社会問題まで訪問者に投げかけます。


写真:この地域に住む人たちの実際の生活を写真で紹介するホーム・ギャラリーのディスプレイ。

©Em Fitzgerald, Courtesy of the Museum of the Home


また、個人の所持品や部屋のオブジェは、そこに住む人のアイデンティティを表します。


写真:暖炉の上のマントルピースに飾られた家族の写真。

©Sophie Verhagen, Courtesy of Museum of the Home


「時代と共に変化する部屋(Rooms Through Time)」は、ジェフリー・ミュージアム時代から継続して人気のあるセクションで、過去400年に渡る中流家庭の家のメインの部屋(ホール、リビングルーム、ドローイングルーム、パーラーなど。時代や場所によって呼称は異なっています。)を再現したものが見られます。

まず最初の部屋は1630年の「ホール」と呼ばれる部屋です。

この時代のホールとは、一緒に食事をしたり、寒い日には暖炉に火がともされ寒さを凌ぐために家族が集まった部屋です。(観光で中世の大邸宅を訪れると、「グレートホール」はよく見られます。)


写真:1630年の部屋「ホール」


これらの部屋は、そのディスプレイから、見学者がまるでその場に居合わせているように感じることができる効果を狙っています。

例えばこの部屋、父親が子供たちのために聖書を読み終え(テーブルの上の聖書から)、召使いが母親の食卓準備を手伝っているところを(同じくテーブルの上のピューター製(錫を主成分とした合金)のお皿から)想像してみてください。

この日の食事はボイルしたビーフと、デザートは小さなレーズンに似たカランツが入ったプディング(動物の胃袋や、布でできた袋に入れて煮つめた料理)でしょう。

食事が終わると、父親と弟子たちは階下の仕事部屋に行って仕事を続け、子供たちは楽器の練習を始めるかもしれません。

この部屋では朝から晩まで忙しい日常生活が営まれ、夜には召使いが床に寝る部屋に変わります。


1695年の部屋は、約30年前に起きたロンドンの大火の後で建てられた住居の「パーラー」です。

木造建築が禁止され、石や煉瓦の建物が建てられました。

パーラーとは、お客をもてなしたり、富、ステイタスを誇張するために家具をディスプレイする大切な部屋でした。

ここでの部屋の設定は、冷たい肉とパンの簡単な食事の後で召使いがテーブルを片付け、これからゲームや、音楽の演奏が始まるところです。


写真:1695年の部屋「パーラー」


テーブルの上にはの“ポセット”のポットが置かれています。

ポセットとは、温かいミルクにワインやエールなどのアルコール、ナツメやシナモンなどのスパイスを入れた伝統的なドロッとした飲み物で、体に良いと言われていました。

写真:1695年のポセット・ポット


1745年の「パーラー」では、陽が昇る前に召使いが暖炉の掃除をしています。

今日は奥様が友人たちをアフタヌーンティーに招待しようと、念入りに掃除するよう言い使っています。

家族が目を覚ます頃には、暖炉に火がともっていなければいけません。

灰が床を汚さないようにと暖炉の前に敷かれた白い布やブラシからは、手際よく仕事をする召使いの様子が想像できますね。


写真:1745年の部屋「パーラー」


1830年の「ドローイングルーム」は女性たちがくつろぐ部屋でした。読書をしたり、絵を描いたりして過ごします。

彼女たちはインテリアデザインに興味を持ち始め、トレンドの紹介やアドバイスをする本も出回りました。


写真:1830年の部屋「ドローイングルーム」


そもそもドローイングルームという名前は「withdraw(引き下がる、退出する)」から来ていて、18世紀の貴族の館などを見学するとよく見かけます。

ディナーパーティーで、食事が終わりテーブルが片付いた後、男性たちはブランデーなどを飲みながら政治やビジネスの話をします。一方女性はドローイングルームに移り、お茶を飲みながらおしゃべりに花を咲かせました。

しばらくすると男性も同じ部屋にやって来て、一緒にお茶を楽しんだことでしょう。




後編に続く…


次回は、1900年代以降の中流家庭の家がどのようなものだったのか、どんな暮らしをしていたのかについて、博物館の館長にインタビューした様子をお届けします。どうぞお楽しみに!

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