英国・クリスマスカードのはじまり

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

12月は、「クリスマスカード」について。


英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。

〈前回の記事、【英国・クリスマスカード文化とは?】はこちらから〉

それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!




メッセージカードそのものは、古代中国での新年を祝うメッセージを贈る文化にあるという説や、古代エジプトでパピルス(草木の茎の繊維を縦横に重ねて作る紙のようなもの)に書いたメッセージを贈ったことにさかのぼるとも言われています。

一方、クリスマスカードの起源は、1979年にスコットランド国立公文書館で見つかった、『ジェームズ王のクリスマスカード』にあります。

これは、1611年にドイツ人医師から、ジェームズ1世(=スコットランド王ジェームズ6世)とその皇太子に送られた書類で、クリスマスのメッセージが添えられていました。

これが現存する世界最古のクリスマスカードと言われています。


「聖なる王(イエス)の生誕日に、グレート・ブリテンおよびアイルランドの王、そして信仰の擁護者であられるジェームズ王のご幸運を祈り、1612年が縁起の良い年であるようお祈りいたします。」


写真:現存する世界最古のクリスマスメッセージと言われる1611年の『ジェームズ王のクリスマスカード』

© National Museums of Scotland


一般の人達でクリスマスカードが交換され始めたのは、それから200年以上経ってからです。

「クリスマス・キャロル」(※)が登場した同じ年に、ヘンリー・コールはリトグラフで印刷されたクリスマスカードを1000枚作りました。

(※1843年に出版された小説。現在英国でクリスマスの時期にチャリティ活動が盛んなのは、この小説の影響があると言われている。)

ヘンリー・コールは公務員であり、発明家でもあり、児童文学作家でもあり、またヴィクトリア&アルバート博物館設立に尽力し、初代館長にもなった人です。

写真:ヘンリー・コール(1877年)


実は、ヘンリー・コールがクリスマスカードを作ったきっかけは、1840年に、「ユニフォーム・ペニー・ポスト(Uniform Penny Post)」という郵便制度の設立に彼が関わったことが多分に影響しています。

それまでの郵便制度は、受取人が高い料金を支払うシステムでした。

「ユニフォーム・ペニー・ポスト」の制度ができ、あらかじめ1ペニーの切手を買うことによって英国国内どこにでも郵便を送ることができるようになったのです。

これが世界初の切手 「ペニー・ブラック」の誕生です。

ちなみに、世界初の切手が英国で作られたため、いまだに英国は切手に国名が書かれていない唯一の国となっています。


写真:1840年に発行された世界初の切手「ペニー・ブラック」にはヴィクトリア女王が描かれている。


この新しい郵便制度を広めるため、また沢山のクリスマスカードのお返しを書く手間を省くために、ヘンリー・コールはクリスマスカードを大量に印刷することを考えました。

こうして1843年12月、ジョン・コールコット・ホーズリー(John Callcott Horsley)のデザインによる、クリスマスカードができあがりました。

そしてヘンリー・コールは自分が使わない余ったカードに手描きで色を塗り、一般の人に向けてに販売したのです。

これが現在のクリスマスカードにつながる、世界初のクリスマスカードの誕生です。

残念ながら、このクリスマスカードは大変高価だったために、ビジネスとしては成功しませんでした。

しかしその後印刷技術が進歩して、より安価なカードが出回り、カードを贈る習慣が広まりました。


写真:ヘンリー・コールが1843年に作った世界初のクリスマスカード

© Victoria and Albert Museum, London



次回に続く…



次回は、1800年代後半~1900年代前半のクリスマスカードをご紹介します。どうぞお楽しみに!

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