英国の春は、食べて!走って!「パンケーキ・デイ」(前編)

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

2月は、「パンケーキ・デイ」について。

英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。


それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!


英国には何百年も前から続いている「パンケーキ・デイ」という春の伝統行事があります。

2023年は2月21日がパンケーキ・デイ。年によってパンケーキ・デイの日が違うのは、復活祭に合わせているからです。

キリスト教では、「イエスが復活する前の40日間を荒野で断食して過ごした」といわれていることから、この期間(Lent=四旬節)はイエスの苦悩を分かち合うために断食をします。(実際には断食の代わりに、お酒やチョコレートなど好物を絶つことが多い。)

そこで四旬節に入る前に、自宅にある卵や脂などを使い果たすという意味でパンケーキを食べる習慣が始まったようです。


パンケーキ・デイは、「告解火曜日(Shrove Tuesday)」とも呼ばれています。

四旬節の前に教会に行って罪を告白し、悔い改めるという日で、教会の鐘が鳴りだすと人々は教会に出向いて罪を告白し、心身ともにすっきりして翌日からの四旬節を迎えようということです。

この教会の鐘は次第に「パンケーキ・ベル」と呼ばれるようになりました。


通常、英国のパンケーキといえばクレープのようなものです。

最近ではトッピングに甘い物や塩気のあるものを載せることが多いのですが、イングランドで伝統的な食べ方と言えば、レモンとキャスター・シュガー(粒が細かいグラニュー糖)をかけて食べるスタイルでしょう。


写真:イングランドスタイルのパンケーキ。レモンと砂糖が伝統的。

©The Farm Deli

同じ英国でもスコットランドのパンケーキは日本のホットケーキのようなものです。こちらではセルフ・レイジングフラワー(小麦粉にベイキングパウダーが入ったもの)を使います。

イングランドでは、このスコットランド式のパンケーキのことを「スコティッシュパンケーキ」とは呼ばず、「アメリカンパンケーキ」と呼んでいます。(正確には、スコットランド式とアメリカ式のパンケーキには微妙な違いがあるようですが。)


写真:アメリカンスタイルのパンケーキにはメイプルシロップが人気。


パンケーキ・デイにはパンケーキを食べる以外にも伝統的なイベント「パンケーキ・レース」があります。

フライパンにパンケーキを載せて走るレースなのですが、ロンドンから北西に100kmほどの場所にある、「オルニー」という町のパンケーキ・レースが特に有名です。

人口6500人の小さな町ですが、パンケーキ・レースの日は英国内から、そして海外からも人々が訪れます。


レースは町の中心から教会までの415ヤード(約379.5m)を走ります。途中でフライパンに入れられたパンケーキを裏返すために3回宙に放り投げるのがルールで、最初にゴールに着いた人が優勝します。

そのゴールの場所は、偶然にも今では誰もが知るキリスト教の讃美歌「アメイジング・グレイス」の作詞者が牧師をしていた教会、ということも興味深いですね。


写真:オルニーのパンケーキ・レースのメインである、女性たちのレース。

©olneypancakerace.org

写真:アメイジング・グレイスの作者が牧師をしていた聖ピーター&聖ポール教会

©olneypancakerace.org


このレースの起源はなんと1445年!

ただ、それ以来ずっと行われていたわけではなく、何度も中断されて今日まで続いています。

現在のパンケーキ・レースはコロナ渦で2021年に中止された以外は連続開催されていて、今年で75年目を迎えます。


町のいたるところにはパンケーキ・レースのロゴや、シンボルのようなものが見られ、いかにパンケーキ・レースがこの町の重要なイベントになっているかがわかります。


写真:オルニーの町の中心にある看板には、教会とパンケーキ・レースで走る婦人たちが描かれている。

写真:オルニーの町の入り口にある看板

写真:町の中心には今年のパンケーキ・レースへのお誘い看板が。


写真:パンケーキを持って走る女性のオブジェ。

©olneypancakerace.org


写真:パンケーキ・レースのロゴ


そもそも何故このようなレースが始まったか?ということですが、さまざまな説があります。

その一つは、1445年に遡ります。

ある女性が四旬節に入る前に卵や脂を使い果たそうとパンケーキを焼いていたところ、突然告解のミサが始まる教会のベルが鳴りだしました。

でも今ここで火を止めるとパンケーキは台無し…ということで、彼女はエプロン姿でフライパンを持ったまま教会に駆けつけたそうです。

(まさか!と、現代の人は思いますが、約600年前には十分あり得たことでしょう。)

翌年、近所の人たちがこれにちなんでレースを始め、勝者は教会の牧師からご褒美のキスをいただいたという説です。


オルニーのパンケーキ・レースが世界的に有名になりメディアに取り上げられるようになった1950年、アメリカのカンザス州にある「リベラル」という町の商工会議所のプレジデントから、オルニーにパンケーキ・レースの挑戦がありました。

それ以来毎年この二つの町の勝負が行われています。お互いのレース勝利者の記録タイムで競います。


写真左:オルニーのパンケーキ・レース(年代不明) ©olneypancakerace.org

写真右:オルニーのパンケーキ・レース(1951年)©olneypancakerace.org


70年余りの歴史の中で、現在はリベラルが優勢のようですが、オルニーの町の人は「当然だよ。リベラルは真っすぐの道、オルニーは曲がった道だからね。」とジョークとも、真剣ともとれる発言。

フレンドリーなレースとは言え、意外にまじめかも?


さて、そんなオルニーにパンケーキ専門のレストランがあります。家族経営の「パンケーキ・パーラー」です。

次回はこの「パンケーキ・パーラー」を取材をした様子をお届けしますのでお楽しみに!


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