英国のティータイム

英国の老舗紅茶商「ファーラーズ(Farrerʼs)」(前編)

自分時間を大切にする英国の日常。その中心にはいつも紅茶があります。

一杯の紅茶から生まれる豊かな時間を、毎月英国の紅茶ブランドをピックアップしてお届けする【英国のティータイム】。


4月は、英国の老舗紅茶商「ファーラーズ」について。


英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。

それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!



今回は湖水地方の「ケンダル」という町にある、老舗紅茶商「ファーラーズ(Farrerʼs)」を取材してきました。

ユネスコの世界遺産に登録されている“湖水地方”、その観光拠点の一つになっているのがケンダルです。

ケンダルは人口約3万人の町。12世紀の城址や博物館など、さまざまな見どころがありますが、多くの英国人がケンダルと聞いて思い浮かべるのは「ケンダル・ミントケーキ」ではないでしょうか?

ケーキと言っても皆さんが想像する柔らかいケーキとは違います。

ケーキ(cake)とは「塊」という意味もあります。例えば「a cake of soap」と言えば「石鹸一個」を意味します。

ケンダル・ミントケーキはお砂糖の塊にミントを入れたもので、日本ではハッカ糖が一番近いかもしれません。

写真:ケンダル・ミントケーキ ©Romney’s Kendal Mint Cake


英国の伝統的なお菓子には、菓子職人が作り間違えて偶然に出来てしまったものが結構あります。

このケンダル・ミントケーキも、もとはと言えば「うっかり!」のミスから生まれました。

1869年に菓子職人だったトマス・ワイパーが透明なミントの飴を作ろうとしたところ、うっかり煮立てた材料をかき回さずに一晩中放置してしまい、翌日には透明どころか白く濁って固まってしまいました。

しかし、これがなかなかの美味で、その後他の菓子職人も同じものを作り出すようになりました。これがケンダル・ミントケーキの始まりです。

トマス・ワイパーのビジネスを受け継いだロバート・ワイパーは、これを「エネルギー源になるお菓子」だと謳って市場に出したところ、登山家、探検家の間で広まりました。

1914年~1917年に南極横断探検を行ったアーネスト・シャクルトン卿や、1953年に人類初のエベレスト山頂到達を成し遂げたエドモンド・ヒラリー卿も、ケンダル・ミントケーキを携えて偉業を成し遂げました。

また最近では俳優のユアン・マクレガーがバイクで世界一周をした際にも、ケンダル・ミントケーキがそのお供だったとか。


さて今回この町を訪れた一番の目的である、英国の老舗紅茶商「ファーラーズ」についてお話ししましょう。


湖水地方はこれまでにも何度も訪れたことがありますが、ホテルや民宿の部屋に電気ポットと共に置かれているのが「ファーラーズ」の紅茶やコーヒーです。

「Farrerʼs」と書かれたティーバッグを見るたび、湖水地方にやってきた実感が湧いて嬉しくなります。

写真上:ホテルの部屋に用意された「ファーラーズ」の紅茶やコーヒー。

写真下:「Farrerʼs」と書かれたティーバッグを見ると湖水地方にやってきた実感が湧く。


オーナーのレベッカ・グレイスさんとの約束に間に合うよう、小雨降るケンダルの大通りを小走りで「ファーラーズティー&コーヒーハウス(Farrerʼs Tea & Coffee House)」に向かいました。


建物の正面を一目見ただけで歴史ある建物であることがわかります。

「中はどうなっているのだろう?」と、胸を躍らせながらドアを開けてびっくり。

後でお聞きしたところ、古いと思った正面は1822年に改築された部分で、中はそれ以上に古い部分が残っていました。


写真:1822年に新しく(?)改築されたファサード


この建物は1637年に住宅として建てられましたが、1670年代には「The Wagon and Horses Inn」という旅籠(はたご:旅人を宿泊させ、食事を提供する宿泊施設)になったようです。


写真:住宅として建てられたときの暖炉がいまだに残っている。

写真:暖炉に刻まれた年代。


1800年代初めにはジョン・ファロウズ(John Fallows)という人物がお茶、コーヒー、ココア、精糖を売り始めました。

それを1819年に買ったのがジョン・ファーラーズです。

ですから、それ以来200年以上に渡って「ファーラーズ」の名前でお茶、コーヒーを販売していることになります。

写真:「ファーラーズ」のお店を創立したジョン・ファーラーズ ©Farrers Tea & Coffee House

写真:正面にはファーラーズが創立された年代「1819」が記されている。 ©Farrers Tea & Coffee House


建物もさることながら、主に17~19世紀のインテリア、昔の道具などが認められ、1951年に保存建築物に登録されました。

つまりこれからご紹介する物品は建物と同じく勝手に破壊したり、移動したりすることはできないということです。


お店に入って最初に目につくのは、紅茶を販売する19世紀のオリジナルのカウンターと、その背後に並べられたオリジナルのキャニスター。

そして向かい側にあるティー・ビンです。(※ビン=bin:蓋つきの大きな容器のこと)

キャニスターとビンはお茶を保管するのに使われていました。

写真:カウンターの後ろに並べられたティーキャニスターには、計りを使って販売する茶葉が入っている。


写真:黄銅製のティーキャニスターには1から20の番号がついている。


写真:送られてきた茶葉が保管されているティー・ビン、今でも送られてきた茶葉が保管されている。


入口のフロアでは100種類以上のお茶が販売されていていますが、上層階はティールームとなっています。

各フロアには、それぞれ好みのお茶やコーヒーをお供に、友人と楽しくおしゃべりしたり、または本を読みながら自分の世界に浸っている幸せそうな顔がありました。


次回に続く…


次回は、ファーラーズのティールームについて。

人気のメニューや、オーナーのレベッカさんにインタビューした際の様子をお届けしますのでお楽しみに!







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