英国のティータイム

英国・リバプールで始まった紅茶ブランド「ブリュー ティー カンパニー(Brew Tea Company)」(前編)

自分時間を大切にする英国の日常。その中心にはいつも紅茶があります。

一杯の紅茶から生まれる豊かな時間を、毎月英国の紅茶ブランドをピックアップしてお届けする【英国のティータイム】。

7月は、2012年に英国・リバプールでスタートした「ブリュー ティー カンパニー」について。

英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。

それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!



今回は、リバプールのティーバー(※)からお茶の卸売り業者に転向し、たった10年間のうちに年間50トンのお茶を扱う企業に発展した「ブリューティーカンパニー」を訪問しました。

成功の秘訣、こだわりなどについてオーナーのフィル・カービー氏にお話を伺いました。

(※ティーバー:「紅茶を中心に提供する、モダンなティールーム・BAR」、の意味としてフィルさんは「ティーバー」と表現)

ロンドンから列車で2時間強のマンチェスターは人口約55万人の都市です。

2月に取材を申し込んでいたのですが、奥様のエイディーンさんが3番目のお子様を出産されるとのことで延期になり、やっと今回の訪問が実現したわけです。


ロンドンからの列車がなんと1時間も遅れ、車内からフィルさんにメッセージを送ったところ、「心配しないで。少なくとも列車はちゃんと動いているようだし、それだけでも奇跡と言うものです。」というお返事。

マンチェスター・ピカデリー駅からタクシーで15分のところに「TEA HQ」と呼ばれるブリュー ティー カンパニーの建物がありました。


写真:現在の本社、兼工場「TEA HQ」の建物

「TEA HQ」のオフィスでは、1時間も遅れたにもかかわらずフィルさんが笑顔で迎えてくださいました。

まずは、テイスティングルームとは棚で仕切られたオフィスでインタビュー。2月に生まれた3番目の赤ちゃんが昼も夜もお構いなしに泣いてばかりいること、夫婦ともに寝不足気味で育児の大変さを今更ながら実感していることなど、打ち解けた雰囲気でインタビューが始まりました。


木島:「ブリューティーカンパニー」は2012年創立と伺いましたが、その前はどのようなお仕事をされていたのですか?

フィルさん:私はもともと会計士で、妻は大学で犯罪学を学びました。結婚してからリバプールでティーバーを2件経営していました。

ところが、ハイストリート(街のメインの商店街)のお店が次々に閉店になっている状況を見て、思い切って2012年に閉店し、お茶を卸すビジネスをすることにしました。


木島:会計士を辞めてお茶をビジネスにしようと決意した理由は?

フィルさん:ティーバーをオープンした理由は、英国人のお茶の習慣を変えたかったからです。

通常英国で飲まれるお茶は、ダスト(細かく刻んだ粉のような茶葉)が多いのです。私たちは良質の茶葉を、しかも大きな茶葉をそのまま使った美味しいお茶を提供したかったのです。ダスト・ティーと呼ばれる細かい茶葉は蒸らす時間が少なく便利ですが、茶葉をそのままの大きさで飲む方が、ずっと美味しいのです。


写真左:カットしていない茶葉(ホールリーフ)をそのまま使う「ブリュー ティー カンパニー」のお茶。

写真右:すっかり開ききった茶葉の大きさに驚く。


木島:お茶の卸業のビジネスが数多く存在する中、最初から成功したわけではないと思うのですがいかがでしょうか。

フィルさん:最初は、母と同居して私たち夫婦と母と3人で、家の近くのウェアハウス(倉庫)を借りて作業をしていました。袋詰めから営業まで全て私たちだけでやっていたのです。


木島:それが10年後にはフルタイムのティーコンサルタントを含む25名のスタッフを抱える規模になったわけですね。その成功の秘訣は?

フィルさん:(少し考えて)まず第一に、お茶は毎日飲むものですから、良質のお茶を提供することを考えました。そして妥協を許さなかったことでしょう。良質のお茶は、値段も高くなります。安さを求めるお客様には、他社をお勧めしたこともありました。私たちのお茶の価値を理解してくださる方々とビジネスがしたかったのです。

それと、お茶に徹したいと思いました。ですから、実際に茶葉を使っていないハーブティーや、デトックスティーなどは一切扱っていません。


写真:小売店に出荷する際の箱にも100%ホールリーフを使っていることが記されている。

フィルさん:2つ目は偶然の結果なのですが、コロナのパンデミックで、オンラインの販売が伸びたことです。多くの小さな規模の業者は、どこかの過程で他の業者に作業を依頼しています。ところが私たちは、テイスティング、ブレンド、パッキング、発送を全て私たちがしていますので、作業を中断することなくビジネスが続けられたのです。

3つ目は、短期間に利益を上げようとしなかったことだと思います。そして機械などに投資をする際は、万が一失敗したとしても大きな影響が出ない程度に投資します。もしその年に投資ができなくても翌年があります。大きなリスクは負わないことが大切です。

4つ目に、実は私たちにとってはとても大切なことなのですが、全ての人の幸せを考えます。「良い会社でありたい。」といつも思っています。働く人もハッピーに働いてもらいたい、サプライヤーにもクライアントにもハッピーでいて欲しい。

もっと広く考えれば、世界中の人の幸せです。そのためには地球環境も考えなければいけません。そのため同じ考えを持つクライアントとの絆を大切にし、パーソナルなビジネスをいつも心がけてきました。


木島:英国の新聞、ウェブサイトは「ブリュー ティー カンパニー」が環境問題に真剣に取り組んでいることを取り上げています。いつ頃から環境を重視したビジネスにしたいと思われたのですか?

フィルさん:ティーバーを経営していたとき、一日に出るゴミの量がとてつもなく多くて、とても気になりました。我々のような小さなお店でもそうなのですから、全国のティーショップ、コーヒーショップから出るゴミは莫大な量になるはずです。そのことがいつも念頭にありました。


木島:お茶の卸業を始めてからはどうですか?

フィルさん:2017年にテレビで『ブルー・プラネットⅡ』(※)をご覧になったお客様から多くの質問が寄せられました。つまり、「ブリュー ティー カンパニー」の商品はプラスチックを使っているかと言う質問です。私たちは直ちにプラスチックを使わずに商品を製造することを考え始めました。

(※ 『ブルー・プラネット』とは、英国国営放送のBBCが4年以上の月日を費やして39カ国で撮影され、2017年に放送された海洋生物に関するドキュメンタリー番組。6000時間以上を海中で撮影、世界の30カ国以上で放送され、大反響を巻き起こした。このドキュメンタリーによって海洋生物に影響を与えている環境問題、特にプラスチック汚染に関する国民の関心が更に高まった。)


フィルさん:それからと言うもの、リサーチに真剣に取り組み、まず私たちの要求を受けてくれるサプライヤーを見つけ、交渉に入りました。

つまり、お茶の質を低下させないで、しかもプラスチックを使わない商品を作ることに努めたのです。現在はほとんどの商品がプラスチックフリーになっています。いずれはここで扱う全ての商品からプラスチックを取り除き、環境にフレンドリーな商品を作ることを目指すつもりです

例えばティーバッグ。袋の製造時点でプラスチックが使われているわけです。つまりナイロンです。

そこでナイロンを使わずにコーンスターチで出来たメッシュの「ソイロン(Soilon)」というものを使うことにしました。


写真:ソイロンを使ったティーバッグ

フィルさん:茶葉の袋は木のパルプから出来ている「ネイチャーフレックス(NatureFlex)」を使っています。コンポスト(生ゴミや落葉などを入れて堆肥を作る容器)に入れると約60日で堆肥になります。


写真:「ネイチャーフレックス」の袋に入れられたアールグレイ茶。

木島:それは素晴らしいです。私は茶葉で淹れることが多いのですが、ティーバッグを使う時は使った後でバッグをハサミで切り、茶葉だけをコンポスト用の箱に入れていました。「ブリュー ティー カンパニー」のお茶は、袋ごとコンポストに入れられるのですね。

その他にはどのような方法で環境問題に貢献しているのでしょう?

フィルさん:ティーバッグのボックスはリサイクル可能な紙を使っています。そしてその箱の中には、外箱やティーバッグ全てがどのような材料で作られて、どのようにリサイクルするのかの説明書が入っています。


写真:箱の中には梱包材の素材、リサイクルの仕方が書かれた説明書が入っている。©Brew Tea Company

木島:開発途上国の生産者をサポートするフェアトレードへは登録されていますか?

フィルさん:最初は考えました。でも、我々のような小さな企業は登録するのが難しいのです。そんな時に「B Corp(B Corporation)」(※) に出会い、これこそが私たちの目指す認証マークであることを発見したのです。


写真左:フェアトレードの認証マーク Fairtrade International e.V., CC BY-SA 3.0 DE

写真右:「B Corp」の認証マーク B Lab, CC BY-SA 4.0

(※「B Corp(B Corporation)」とは、2006年に米国で発足した非営利団体の「B Lab」が運営している認証制度。環境、社会、ビジネスの透明性など包括的に「良い社会」を目指す制度。)


お話を伺った後は工場を見学です。

「なるべく茶葉に損傷を与えないように機械を避け、人の手によって丁寧に作業が行われます。」とフィルさんが説明してくださいました。


次回に続く…

次回は、「ブリュー ティー カンパニー」の工場見学や、オリジナルブレンドの紅茶を作った際の様子をお届けしますのでお楽しみに!


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