英国と"マーマレード"の深い関わり

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

1月は、マーマレード。
英国バッキンガムシャー在住の英国政府公認ブルーバッチ観光ガイド木島・タイヴァース・由美子さんは、いつも新年を迎えたこの時期にマーマレードを自宅で作っています。
英国に馴染みの深いマーマレードについてのあれこれを、お話いただきました。

それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!

木島さん宅の"マーマレード"

<<英国人はマーマレードを"ジャム"と呼ばない>>
今年もまたマーマレード作りの季節がやってきました。
私の年初めはマーマレード作りから。
1年分を作ります。親せきやご近所に配るのでかなりの量です。
英国の保存食の中でも、マーマレードは特別な存在です。
それは、イチゴや黒すぐり、ラズベリーなどは全て"ジャム"と呼ばれているのに対し、
英国人はマーマレードを"ジャム"とは決して言わないことからもわかります。

では、マーマレードとジャムの違いは?
一応定義では「柑橘類が主な材料の場合はマーマレード」となっています。
最近はレストランのメニューに「オニオンマーマレード添え」などと書かれているのを目にすることもあり、マーマレードファンとしてはあまり面白くありません。

Q:オニオンマーマレードという表現は私も初めて目にしました!
 木島さんが面白くないなと感じられたのは、マーマレードという存在が軽視されているように受けたからでしょうか?

木島さん:いちマーマレードファンとしての個人的な意見になりますが、マーマレードは柑橘類の保存食だけに使ってもらいたいです。

セヴィルオレンジ

英国伝統のマーマレードの一番の特長は、スペイン産の"セヴィルオレンジ"を使う事。アンダルシア地方、特にセビリアでは町中でも見かけるオレンジの木ですが、実をそのまま食べると苦味と酸味が強く、美味しくありません。スペインではお料理に使うことはあるそうですが、あまりこれといってセヴィルオレンジを美味しく加工して楽しむ"文化"がないようです。ほとんどが英国へと輸出されています。セヴィルオレンジが市場に出回るのは1月~2月初旬の短い間だけです。

最近では、マーマレードを自宅で作る人は少なくなりました。
それでも私を含め、多くの人は毎年この時期に1年分のマーマレードをつくります。
1度でたくさん作るにはその分手間と時間がかかりますが、美味しいマーマレードを食べるために、自宅でこつこつと作ることは楽しみのひとつです。
市販されている高級マーマレードは小さな工場でつくられるものが多いようで、作る時の手間を考えれば少々高くても十分に価値があると感じています。
では実際に私が自宅で作る時のエピソードはまた後にして、まずはマーマレードにまつわる逸話をお話したいと思います。


<<マーマレードの歴史>>
長年マーマレードについての情報をチェックしていますが、その歴史に関してはじつに色々な説があります。
マーマレードの歴史は古代ギリシャまで遡ります。
ローマ人はさまざまな形で果物を保存する方法を考えていたようです。
中でも現在のマーマレードに近い保存方法が、"マルメロを蜂蜜で煮ると冷めた時点で固まる"というもの。
(現在では、マルメロの中に含まれるペクチンによるものと判明しています。)
それが現在のマーマレードにつながっている、という説が有力です。
しかしその当時はマルメロのペーストみたいなもので、現在のマーマレードとはほど遠いものだったようです。

ロンドンのパディントン駅にある"くまのパディントン"の銅像

<<著作物や史実にも登場するマーマレード>>
英国の作家マイケル・ボンドの児童文学作品に登場する「くまのパディントン」。彼の好物は、マーマレード。
英国でマーマレードを語る際の象徴的なキャラクターになっています。
"007"でお馴染みのジェイムズ・ボンドもまた、映画「ロシアより愛をこめて」の作中で美味しそうにマーマレードを食べています。

1910年、イングランド人の探検家キャプテン・スコットは南極探検の際に、マーマレードを持って行きました。
後になって、空っぽになったマーマレードのビンが氷の下から見つかっています。
1953年に人類初めてのエベレスト山頂に成功したエドマンド・ヒラリー卿も、登山の際にはマーマレードを持って行きました。
※日本ではエドモンド・ヒラリーという名が浸透していますが、スペルはEdmundなのでここではあえて"エドマンド"と表記させていただきますね

Q:南極探検やエベレスト山頂挑戦という過酷な環境で、あえてマーマレードを持参したというのがとても気になります。

木島さん:
その理由は明確には書かれていませんが、過去に読んだり目にしたものなどから私が思うのは、英国人にとってマーマレードは"故郷"を思い起こす存在なのだと考えています。
ですので、過酷な環境下において一種の"癒し"になるのではないかと。

<<世界中から集まるマーマレードの祭典>>
毎年、英国のカンブリア地方にあるダルメインの館では「世界マーマレード祭り」が開かれ、マーマレードに関する様々なイベントが行われています。
イベントのひとつとして、世界中から集まったマーマレードのコンテストが開催されます。
実は、数年前にご縁がありそのコンテストのプロ部門の審査をさせていただきました。
英国内から集まった20名ほどの審査員によって、ひとつひとつ丁寧にチェックされます。

写真上:英国全土から集まった審査員たち
写真下:それぞれのマーマレードを念入りにチェックし、コメントを書きます

Q:審査員の方たちの両脇に、すごい数の箱が積み上げられていますね!
よく見ると英国の有名店「フォートナム&メイソン」(以下:F&M)と書かれています。こちらの中身はまさかすべてマーマレードですか?

木島さん:この年はF&Mがスポンサーだったので、審査員の記念写真にあえてF&Mの箱を置いて撮影しました。撮影時の箱の中は空っぽです。アマチュア、アーティザンの部門を合わせると世界中から送られてくるマーマレードは、この箱に入りきらないほど沢山ありました。

審査は2人1組で、「色」「香り」「固まり具合」「皮の硬さ」「皮がジェリーの中に均等に交じり合っているか」など、多くの項目をチェックします。

マーマレードが大好物!"くまのパディントン"による授賞式

マーマレードといえば、先ほどご紹介した"くまのパディントン"です。
アマチュア部門の授賞式にはいつも登場します。

次回『自宅で英国伝統のマーマレードをつくる、至福の時』へつづく。

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