ティーテイスターの仕事とは? 英国紅茶ブランド「ヨークシャーティー」(後編)

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

9月は、英国のテイラーズ・オブ・ハロゲイト社が販売している「ヨークシャーティー」について。
英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。


それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!



英国の紅茶市場の28%を占めるテイラーズ・オブ・ハロゲイトが販売しているヨークシャーティー。
その本社のテイスティングルーム「The Central Tea Tasting Room」を訪問し、ティーテイスターのスージーさんにお話を伺いました。
早速インタビュー開始です。

木島:まずはじめに、ティーテイスターの仕事とはどのようなものですか?

スージーさん:お客様は自分が決めたお茶を購入する時には、毎回同じ味を期待しています。
ところがお茶は生きているので、その年の気候、雨量、湿度などで微妙に味が変化します。それをブレンドすることによって一定の基準にすることが、テイスターの仕事なのです。
私たちティー・テイスターは、この部屋で毎日最高1000回のテイスティングをします。
木島:そんなに多くのお茶をどのようにしてテイスティングするのでしょうか?

スージーさん:毎日、インドやアフリカなどから沢山の茶葉が送られてきます。そして5.6グラムずつカップに入れてお湯を注ぎます。この時、ミルク入りとミルク無しの両方のお茶をテイスティングします。
この場所では、①ヨークシャー・ティー、②カフェインを抜いたヨークシャー・ティー、③硬水用ヨークシャー・ティー、④ヨークシャー・ゴールド、⑤ブレックファスト・ブリュ、⑥ベッドタイム・ブリュ、⑦ビスケットブリュ、⑧トースト&ジャムブリュの8種類のお茶がブレンドされています。
写真上:届いた茶葉は、まずはミルク無しでそのまま、次にミルクを入れてテイスティングします。後列の箱は左からヨークシャーティー、ヨークシャーティー・ゴールド、デカフェ)
写真下:シルバーの袋には、茶園から毎日届く茶葉が入っている。

木島:水は水道水ですか?

スージーさん:そうです。軟水と硬水の両方でテイスティングします。このテイスティング・ルームには軟水用、硬水用それぞれの蛇口があります。

木島:軟水、硬水と別々にテイスティングをしなければいけないほど、水はお茶に影響するのですか?

スージーさん:はい。美味しいお茶を淹れるために、水はとても重要です。
ヨークシャー地方の水は硬水で知られていますが、同じヨークシャー地方の中でもここハロゲイトは軟水なんですよ。
そこでヨークシャーの他の地域からテイスティングのための硬水が届けられます。
軟水でお茶を淹れた時には隠されている可能性のある、汚れ・風味・特徴(クセ)を隠さずに全て引き出す、それが硬水です。
ですから、お茶の特質を全て引き出す硬水でしっかりブレンドすると、特徴(クセ)があまり現れない軟水にも適したブレンドが出来上がるというわけです。
そもそもヨークシャーティーが出来たのは、ヨークシャーの水に合った最高のお茶を提供することが目的でした。ですから、昔はそれぞれの地域の水に合わせて違うお茶をブレンドしていました。
ヨークシャーティーでは、現在でも特に強い硬水の地域には特別に「硬水用」のお茶をブレンドしています。

木島:ヨークシャーティーにはどこの茶葉が多く使われているのですか?

スージーさん:アッサムの茶葉をよく使います。また、東アフリカの茶葉も濃厚さを出すためによく使います。
写真上:硬水用のヨークシャーティー ©Yorkshire Tea.
写真下:左から、2018年・2020年に新しく加わったビスケットブリュとトースト&ジャムブリュ

木島:ここには何人のティーテイスターがいらっしゃいますか?また、みなさん今までお茶一筋でこられたのですか?

スージーさん:6人です。全く違うキャリアを持っていた人もいます。経済学を学んだ人、商船海軍に在籍していた人、人類学者などです。
ティーテイスターに最も大切なことは、お茶に対する情熱。それさえあればバックグラウンドはそれほど重要ではありません。

木島:スージーさんはなぜティーテイスターになったのですか?

スージーさん:大学在学中にキャリアについて考えていたところ、友人が新聞の求人広告を見つけました。ヨークシャーティーの広告で、“あなたはお茶が好きですか?旅には自信がありますか?ティーテイスターになる希望はありますか?”と書かれていました。
昔からお茶は大好きでしたし、旅も好きです。すぐに手紙を書いて、面接を受けました。
私は大学で開発学の学位を取得しました。世界が安定した社会を作り出すことを学ぶ学問が開発学で、発展途上国についても学びました。お茶の仕事には世界の動きを知ることは大切ですから、大学で学んだことが役に立ったというわけです。
入社が決まってからはお茶に関する基礎を学んだあと、6か月間アフリカ、インド、インドネシアなどで更にトレーニングを受けました。

木島:訓練にはどのくらいかかりましたか?

スージーさん:約2年です。でも、それで終わりではありません。味覚を向上させる訓練は今も続いています。
写真左上:アッサムでお茶の酸化具合を点検するスージーさん ©Yorkshire Tea.
写真右上:お茶にビスケットを浸すスージーさん(お好みのビスケットはジンジャー・ナッツだそう。)
写真左下:ヨークシャーゴールドの茶 ©Yorkshire Tea.
写真右下:スージーさん(左)と海外のマーケティングを担当しているセラ・ヘンダーソンさん(右)

木島:求人広告の「旅には自信がありますか?」って、どういうことですか?

スージーさん:私たちは茶園をよく訪れ、生産者の方との関係を築いていきます。
ヨークシャーティーでは生産者との長期にわたる公正な強い信頼関係、そしてサステナビリティを最も大切にしています。これまで何十年もの間、良質のお茶を提供すること、そして生産者の方々の生活向上を常に心掛けてきました。
例えば生産者には公正な価格を支払います。そして生産者は雇用人に対して公正な給料を支払い、衛生も含め労働環境を改善するよう心掛けています。
2015年にはその功績が認められ、熱帯雨林同盟(Rainforest Alliance) よりサステナブルの模範となる企業(Sustainable Standard Setter)に指定されました。
また同年に王室御用達に加えられました。(ヨークシャーティーの箱には、現在、チャールズ新国王が皇太子時代に使っていた紋章であるダチョウの羽3枚がつけられています。

木島:最後にあなたの一番好きなヨークシャーティーのブレンドは?

スージーさん:ヨークシャーゴールドです。アフリカのルワンダ共和国などで最高の時期(5月6月)に摘まれたお茶を使っています。
写真上:ティーテイスティングの部屋がある建物の入り口には、数々の表彰楯が並べられていました。
写真下:美味しい(不味い?)お茶のカラー・チャート ©Yorkshire Tea.

木島:本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。

今回の取材で感じたことは、ここで働く人々がヨークシャーティーに大きな愛着を持っているということです。
そしてヨークシャー地方で出会った人々の中には「お茶=ヨークシャーティーのこと」と考えている人が多いことも新しい発見でした。

そして茶葉の生産地コミュニティーにも貢献していると聞けば、ヨークシャーティーが一段と美味しく感じられます。

最後に、ヨークシャーティーが出している、お茶のカラー・チャートをご紹介します。(お茶の美味しい色と不味い?色が示されています。)
ユーモアのセンスを大切にする英国人ならではのカラー・チャートです。
ご一緒に楽しい気分に浸りながら、美味しいお茶で一服しましょう!

※テイラーズ・オブ・ハロゲイトのヨークシャーティーは「英国フェア2022」の会場でもお取り扱い予定です。
(販売する商品は、記事中の銘柄や写真とは異なる場合がございます。)
●10月12日(水)~17日(月)の販売
●9階催場
<木島・タイヴァース・由美子 プロフィール紹介>
英国政府公認ガイドとして30年以上にわたって英国全土の観光案内をする。

2015年に英国の文化に特化したツアーの企画、アドバイスを専門に扱うカルチャー・ツーリズムUKを設立。

現在は観光ガイドの他に毎月英国の観光、文化に関してのオンライン・トークを実施している。
バッキンガム州で夫、愛犬の3人暮らし。

その他、雑誌や新聞に寄稿。
著書に「小さな村を訪れる歓び」「イギリス人は甘いのがお好き」がある。

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