英国の春は、食べて!走って!「パンケーキ・デイ」(後編)

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

2月は、「パンケーキ・デイ」について。

英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。

〈前回の記事、【英国の春は、食べて!走って!「パンケーキ・デイ」(中編)】はこちらから〉


それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!

パンケーキ・レースで有名なオルニーの町にある、家族経営のパンケーキ専門レストラン「パンケーキ・パーラー」を取材してきました。

経営者であるジェニファーさんとジリアンさん姉妹にお話を伺いました。


木島:このお店のことを聞かせてください。とても人気があるようですね。今日も奥は満席です。お店の成功の秘訣は?

ジェニファーさん:それはチームワークだと思います。もちろん食事の中身も大切ですが、私たちはスタッフと話し合って、いつもお客様のニーズに応えるようにしています。素晴らしいスタッフを持って幸運です。


木島:(店内に飾られている証書を指して)コーヒーに関するビジネスで賞を取られたのですね。

ジェニファーさん:2021年にはミルトン・キーンズ地区のベスト・カフェに選ばれました。


木島:賞獲得の秘訣は?

ジェニファーさん:3つあります。「商品の内容」、「サービス」、そして「チームワーク」です。


写真:「パンケーキ・パーラー」のスタッフ 

©Olney Pancake Parlour


写真:2021年ミルトン・キーンズ地区「ベスト・カフェ」のアワードを獲得。

©Olney Pancake Parlour


木島:お店が午後3時に閉店ということには驚きました。どうしてですか?最近の光熱費の高騰のためですか?

ジリアンさん:それもありますが、このお店は朝食の時間帯が一番忙しいのです。それは一番人気のメニューが「ブレックファスト・パンケーキ」であることからもわかります。ですから、3時閉店は妥当であると判断しました。週末のみ、閉店時間を4時にしたら?という意見も出ているので、将来はそうなる可能性もあります。


写真:一番人気の「ブレックファスト・パンケーキ」

©Olney Pancake Parlour


木島:なるほど。今日はいろいろなお話を聞かせていただき、ありがとうございました。



パンケーキ・パーラーの後に訪れたのはレースのゴールでもある聖ピーター&聖ポール教会です。

ウーズ川のほとりに立つ教会は、最も親しまれている讃美歌『アメイジング・グレイス』の歌詞を書いたジョン・ニュートンが副牧師をしていた教会です。


写真左:オルニーの聖ピーター&聖ポール教会

写真右:教会内のステンドグラス


彼は、ちょうど250年前の1773年1月1日にこの教会で『アメイジング・グレイス』を初めて公表しました。

その6年後に『オルニーの讃美歌集』の一つとして紹介されました。


写真:2023年は『アメイジング・グレイス』が生まれて250周年を迎える。


アメリカでは、まるで国歌のように、そして特に黒人の間で歌われています。また、それはジョン・ニュートンの生涯をも物語っているかのようです。

ジョン・ニュートンは奴隷貿易に関わっていました。ある時、アフリカから奴隷を運ぶ船が難破しそうになり、彼は神に祈りました。

敬虔なクリスチャンであった母は、子供のころから聖書を読み聞かせていましたが、彼自身はそれほど強い信仰心は持っていませんでした。

ところが、この船での経験が彼の人生を別の方向に導いていったのです。当時の奴隷は人間としての扱いを受けておらず、目的地に到着する前に多くが船の中で亡くなっていました。

祈りが届いたのか、ニュートンは助かります。その後牧師になるための勉強を始め、遂に1764年、38歳の時にオルニーの教会の副牧師になります。

そこで『アメイジング・グレイス』の作詞をしますが、その後の彼の活動は英国の歴史を変えました。

1785年、ウィリアム・ウィルバーフォース下院議員から、政治家を辞めて牧師になる旨の相談を受けます。

これに対してニュートンは、牧師としてよりも政治家として奴隷貿易を禁止する活動をするようにアドバイスしました。

このウィリアム・ウィルバーフォースこそ、歴史に残る奴隷解放活動家として世に知られるようになった人物です。

英国本土では1807年に奴隷貿易が禁止、1833年、ニュートンの死の1ヶ月後には大英帝国全ての国での奴隷制を禁止しました。


ニュートンに関しての博物館は、パンケーキ・パーラーのすぐ近くにあります。残念ながら訪れた時は閉館でした。

写真: カウパー・アンド・ニュートンミュージアム(Cowper and Newton Museum )




【#英国ライフ 今月の紅茶タイム!】

パンケーキ・パーラーの取材の後、さっそくお店のパンケーキを試してみました。

一番人気の「ブレックファスト・パンケーキ」と、あらかじめ予約が必要な「パンケーキ・アフタヌーンティー」です。

アフタヌーンティーに合わせて、もちろん紅茶もいただきました。


まず、ブレックファスト・パンケーキは、一緒に行った相棒によると「イングリッシュ・ブレックファストとアメリカン・ブレックファストが一緒になって、新しいブレックファストが開拓された!」と満足した様子。


私には初めてのパンケーキ・アフタヌーンティー、大いに気に入りました。

通常のアフタヌーンティーとの大きな違いは、もちろんサンドイッチの代わりのパンケーキです。通常のフィンガーサンドイッチよりも満腹感がありました。

とろけたチーズとハム、そしてパンケーキとのコンビネーションは舌が踊るほど美味しく、新しい発見でした。スコーンも、「外はカリッ、中はシットリ」のバランス感がちょうど良く満足。

写真左:パンケーキ・アフタヌーンティー(通常のもの、グルテンフリー、ヴィーガンの中から選択ができる)

写真右:ヴィーガン・アフタヌーンティーでは、二つに折りたたんだパンケーキは半分ずつ。

片方には地中海風ベジタブル、もう片方にはとろけるチーズとハム。(チーズやハムはヴィーガンメニュー用の植物性のもので作った代替品です。)


ジェニファーさんとジリアンさん姉妹が、従業員との完璧ともいえるチームワークで人気を集めているパンケーキ・パーラーは、ぜひ日本の方々にもお勧めしたいレストランです。

写真左:ハロウィーン・アフタヌーンティー ©Olney Pancake Parlour

写真右:クリスマス・アフタヌーンティー ©Olney Pancake Parlour


写真左:壁に掛けられた可愛らしいパンケーキ・パーラーのエプロン

写真右:絵を描くイベントのポスター


パンケーキ・パーラーでは、男性のためのイベント、子供向けのバレンタインデーやイースターの陶器の絵付けなど、様々なイベントが行われています。


今回の取材では、パンケーキからアメイジング・グレイス、そして奴隷制度廃止まで、一日で多くの発見がありました。

さっそく家に帰って作ったパンケーキは、なんだかいつもと違う味に思えました。オルニーの町を訪れた経験が、新しい味を醸し出したからかもしれません。


<木島・タイヴァース・由美子 プロフィール紹介>


英国政府公認ガイドとして30年以上にわたって英国全土の観光案内をする。

2015年に英国の文化に特化したツアーの企画、アドバイスを専門に扱うカルチャー・ツーリズムUKを設立。

現在は観光ガイドの他に毎月英国の観光、文化に関してのオンライン・トークを実施している。

バッキンガムシャー州で夫、愛犬の3人暮らし。その他、雑誌や新聞に寄稿。著書に「小さな村を訪れる歓び」「イギリス人は甘いのがお好き」がある。


カルチャー・ツーリズムUKのホームページを見る


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