英国の「ヴィーガン・アフタヌーンティー」②

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

3月は、英国の「ヴィーガン」事情について。

英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。

〈前回の記事、【英国の「ヴィーガン・アフタヌーンティー」①】はこちらから〉


それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!


ウィンザー城から北に25kmほどの場所にある「バーナム ビーチズ ホテル(Burnham Beeches Hotel)」のティールームで、ヴィーガン・アフタヌーンティーの取材をしてきました。


アフタヌーンティーに欠かせないもののひとつに胡瓜(きゅうり)のサンドイッチがあります。最近ではお目にかかることが少なくなってきました。

素朴すぎて豪華さに欠けるからでしょうか?

今回取材したティールームでも、通常のアフタヌーンティーには胡瓜のサンドイッチは含まれていませんでした。


でも私にとってアフタヌーンティーのサンドイッチと言えば、何と言っても透き通るくらいに薄く切った胡瓜のサンドイッチです。

今回、ヴィーガン用のアフタヌーンティーに含まれていたので、見つけた瞬間にまず最初に手が伸びてしまいました。

写真:ヴィーガン・アフタヌーンティー(左)と、通常のアフタヌーンティー(右)。

写真:ヴィーガン用のサンドイッチ。手前から「胡瓜、ディル&クリームチーズ」「アボカド&ローストしたパプリカ」「チーズ&ピクルス」「トマト&チャツネ」「ビーツ&フムス(ひよこ豆をペースト状にした料理)」。


スコーンは通常の物より少々膨らみがありませんでしたが、それでも「外がカリッ」「中がしっとり」としていて美味しいです。

通常スコーンを作る際には卵が使用されるので、スポンジのようにフワっとしています。ヴィーガン用のスコーンには卵を使用しないので、フワっとしているというよりも生地がつまっていてしっかりとした食感です。



写真:ヴィーガン用スコーン(左)と、通常のスコーン(右)。


さて、スコーンに付けるものといえばクロテッドクリームです。クロテッドクリームは牛乳から作られるので、今回ヴィーガン用には大豆をベースとしたホイップクリームのようなものが添えられていました。

この大豆のクリームは、クロテッドクリームよりもかなり柔らかく、少し甘みがありました。

実は、今回のヴィーガン・アフタヌーンティーで唯一残念だったのが、このクリームです。もっとしっかりとした食感のクリームだったら完璧でした。


写真:大豆ベースにバニラと砂糖を加えたヴィーガン用のクリーム(左)、通常のクロテッドクリーム(右)

写真:クリームを載せたスコーン(左:ヴィーガン用、右:通常のスコーン)


さて、次は一番上のお皿に載っているケーキ類をご覧ください。まずは通常のアフタヌーンティーです。

写真:通常のアフタヌーンティー用のケーキ類。

パッションフルーツ・ポセット(中央)、ブラックフォレスト・レイヤーケーキ(左手前)、キャラメルとバニラのシュークリーム(左右後ろ)、ラズベリーとホワイトチョコレートのマカロン(右手前)。


グラスに入ったものは「パッションフルーツ・ポセット」です。「ポセット」という言葉は15世紀には存在していたようで、当時は牛乳にワインやエールを加えて固まらせたものでした。これが、19世紀にはクリーム、砂糖、レモンや酸味のあるフルーツを入れて固まらせたものが主流になりました。

今回提供されたポセットは、美しい黄色のパッションフルーツに、食用の青紫色のパンジーが添えられています。



写真:ヴィーガン・アフタヌーンティーのケーキ類。

フルーツ・タートレット(タートレット=小さいタルト)(左手前)、レモンドリズルケーキ(手前右)、チョコレートとラズベリーのトラッフルケーキ(左後ろ)、ジンジャー&アプリコットケーキ(右後ろ)。


ヴィーガン用のケーキは、英国独特の焼き菓子のようなものが多く、あっさり系です。クリーム系のケーキが苦手な方には特に嬉しいケーキが並びます。
どれも英国で人気のケーキを基にしながら、シェフのアイデアを入れてオリジナル性を持たせています。


さて、ヴィーガン・アフタヌーンティーを提供するためには、通常のアフタヌーンティーとは異なる事前準備が必要です。サンドイッチの中身に関しては、通常のサンドイッチよりも選択肢があるので良いのですが、問題はスコーンとケーキです。
スコーンに添えられたクリームに関しては先ほどお話ししました。
ホテルやレストランでは、スコーンにふさわしいヴィーガン用のクリームの供給業者を探し、継続して仕入れることが容易ではありません。

次にスコーンとケーキですが、これは100%シェフの腕にかかっています。
卵やバターを使わず作った時に、「きちんと膨らむこと」「食べた瞬間にボロボロとケーキが崩れないこと」「噛んだ時に異常な歯ごたえがないこと」という点に特に気をつかいます。

そこでこの日のアフタヌーンティーを用意してくださった、ホテルのペイストリー・シェフ(パティシエ)のセーラ・エドワーズさんにお話を伺いました。
彼女はペイストリー・シェフとして26年間のキャリアを持っています。

写真:ペイストリー・シェフのセーラ・エドワーズさん。


木島:このホテルでは、通常のアフタヌーンティーやヴィーガン・アフタヌーンティーの他に、どんなアフタヌーンティーがいただけるのでしょうか?

セーラさん:ご予約時に要望を伝えていただければ、どんなものでも提供するように心がけています。ベジタリアンやグルテン・フリーへの対応はもちろんのこと、アレルギーのある方、糖尿病を患っている方、乳製品を摂ることができない方、またベジタリアンの中でも魚は召し上がるペスカタリアンの方など、食に制限のある方でもご家族や友人たちと一緒にアフタヌーンティーを楽しんでいただけるようにしたいのです。

ケーキは毎日焼きますので、ご予約をいだいたお客様のご希望に合ったものを用意することができます。


木島:通常のアフタヌーンティーと比べて、ヴィーガン・アフタヌーンティーはどのくらいの需要があるのでしょう?

セーラさん:そうですね、一概には言えません。滅多にいらっしゃらないこともあれば、立て続けにオーダーが入ることもあります。平均的には、10名のアフタヌーンティーのご予約があるとすると、そのうち2名ほどがヴィーガン用を希望されます。


木島:つまり20%ほどということですね。けっこう多い印象です。それは最近急に増えたのでしょうか?

セーラさん:確かに、近年需要は増えてきていると思います。10年前と比べても、多くの人がヴィーガニズムに興味を持っています。

ヴィーガンの人ではなくても、スーパーマーケットなどに行けば必然的にヴィーガン食が目に入ってきます。「ヴィーガン」と言う言葉も今では珍しくなくなりました。単に嗜好だけではなく、例えば英国には環境問題に興味を持っている人が多いので、今後もヴィーガン食の需要は増えるでしょう。ですから、ヴィーガン・アフタヌーンティーに期待を寄せる方も今後ますます多くなるのではないかと思います。


木島:特にヴィーガン用のアフタヌーンティーを用意する時に気をつけていらっしゃることは?

セーラさん:ケーキに関しては、できるだけ通常のケーキと味や食感が変わらないように工夫しています。まだ苦情はいただいていませんので、ご満足いただけていると思います(笑)。

更に特に気を付けることといえば、準備段階です。例えば肉類を扱ったまな板などは、しっかり洗浄してからヴィーガン用のものを作ります。

これは、例えばナッツなどアレルギーを持っている方の食品を準備する時も同じです。器具を洗うことはとても大切です。近年はアレルギーを持つ人が増えました。ですから、包丁、まな板を洗う回数も増えましたよ。


木島:ヴィーガン用のスコーンは作るのが難しいと思います。準備段階において、通常のスコーンとはどのような違いがありますか?

セーラさん:私は通常スコーンを作る際には卵を使用しますが、ヴィーガン用の場合は卵は使用しません。代替卵(動物性の原料を使用せず作った、鶏卵の代替品)も売っていますが、私は使いません。そこで膨らませるために、セルフ・ライジングフラワー(初めからベーキングパウダーと塩が入っている小麦粉)に、更にベイキングパウダーを加えます。


木島:なるほど。そのような工夫が先ほどのヴィーガン・アフタヌーンティーの味に繋がっているのですね。

スコーンもケーキもとても美味しかったです。もちろんサンドイッチも!

本日はありがとうございました。



私はヴィーガンなので、少し前まではスーパーマーケットでさえヴィーガン食を見つけるのが困難で、いつも原材料を調べていました。買い物にも時間がかかっていましたが、今ははっきりとパッケージに明記されているので買い物の時間も短縮されました。

また以前はレストランやティールームに行く際は前もってヴィーガン対応のメニューがあるかどうかを確認していました。今ではそれも必要なくなり、行き当たりばったりのティールームでティータイムを楽しむことが出来るようになりました。一度席についてメニューを見た後でお店を出る、ということが全くないとは言えませんが(笑)。

また、今ではロンドンの有名ホテルのほとんどがヴィーガン・アフタヌーンティーを提供していることを考えると、ヴィーガン・アフタヌーンティーが英国中のホテルやティールームに広がる日が来ると思います。そしてそれは意外に近い将来かもしれません。


<木島・タイヴァース・由美子 プロフィール紹介>

英国政府公認ガイドとして30年以上にわたって英国全土の観光案内をする。

2015年に英国の文化に特化したツアーの企画、アドバイスを専門に扱うカルチャー・ツーリズムUKを設立。現在は観光ガイドの他に毎月英国の観光、文化に関してのオンライン・トークを実施している。

バッキンガムシャー州で夫、愛犬の3人暮らし。その他、雑誌や新聞に寄稿。著書に「小さな村を訪れる歓び」「イギリス人は甘いのがお好き」がある。


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