英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。
6月は、2023年5月に行われた、チャールズ3世国王陛下の「戴冠式」について。
英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。
それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!
2023年5月6日、ロンドンのウェストミンスター寺院で、チャールズ3世国王陛下とカミラ王妃の戴冠式が行われました。
2023.6.12
英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。
6月は、2023年5月に行われた、チャールズ3世国王陛下の「戴冠式」について。
英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。
それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!
2023年5月6日、ロンドンのウェストミンスター寺院で、チャールズ3世国王陛下とカミラ王妃の戴冠式が行われました。
写真:史上最高齢の74歳で戴冠式を迎えたチャールズ3世国王陛下。©Crown Copyright 2023
故エリザベス2世女王陛下がご存命の時から、「Operation Golden Orb―金の宝珠作戦」という暗号のもとに準備された戴冠式は、伝統を残しつつ、また今という時代を反映したものとなりました。
生活費の高騰に苦しむ国民のことを考慮し、予算も抑え、規模も縮小しました。
70年前の故エリザベス2世女王陛下の戴冠式の参列者は8,000人にもおよびましたが、今回はその4分の1の2,000人。
また参列者も人種、文化、宗教の多様性を考え、英国国教会の代表者だけではなく、ヒンドゥー教、仏教、ユダヤ教、イスラム教などの代表者、またコミュニティやチャリティで活動する850人の一般人が招待されました。
「控えめな戴冠式」とはいえ、宗教典礼の荘厳さ、前後のパレードの華やかさに圧倒された人も多かったのではないでしょうか。
写真:戦没者の記念碑の横を行進する近衛連隊 ©Crown Copyright 2023
「戴冠式」とは、文字通り新君主に冠を載せる(戴冠)ことによって、君主としての権限と英国国教会の長としての地位を承認することを意味します。
英国での戴冠式がこれほどまでに世界から注目を集めている理由の一つは、英連邦にあります。
チャールズ3世国王陛下は、英国、王室属領・海外領土の君主であるばかりではなく、現在56カ国が加盟している英連邦の国々の首長であり、その中でも君主制度をとる20の加盟国のうち、独自の君主を持たない15カ国の君主にもなられたわけです(残りの36加盟国は共和国)。
英連邦の総人口は、世界人口の約3分の1にあたる26億人にもおよびます。
写真:英連邦加盟国であるカナダの、王立カナダ騎馬警察の隊員たち。戴冠式後にバッキンガム宮殿に戻られるチャールズ3世国王陛下とカミラ王妃を先頭でエスコートしている。 ©Crown Copyright 2023
このような理由からも英国君主の戴冠式が世界から注目されるのは自然なことで、しかも1953年の故エリザベス2世女王陛下の戴冠式以来70年ぶりとあってはなおさらです。
現在ヨーロッパの国々の中で、いまだに戴冠式を行っているのは英国だけ。
その他の国は、君主国であっても共和国であっても簡単な叙任式を行い、新しい君主や大統領が誓いを立てることが多いのです。
写真:重さが2kg以上ある「聖エドワード王冠」を、カンタベリー大司教が新国王に被せる瞬間。「聖エドワード王冠」は戴冠式の時にのみ使われ、同じ君主が二度使うことはない。 ©2023 Dean and Chapter of Westminster
今回はカミラ王妃も戴冠されました。
故エリザベス2世女王陛下の王配であったエディンバラ公爵フィリップ殿下は「キング」の称号はもちあわせていなかったので、戴冠はしませんでした。
写真:王に次いでカミラ王妃も戴冠。 ©2023 Dean and Chapter of Westminster
戴冠式は1000年もの間、ウェストミンスター寺院で行われてきました。
現在の王室の始まりとされるウィリアム征服王(ウィリアム1世)が1066年にこの寺院で戴冠して以来、2人の王を除く39名が戴冠し(※)、今回の戴冠式が40番目となりました。
(※戴冠式の前に退位させられたエドワード5世と、チャールズ3世の大伯父で、離婚歴のあるアメリカ出身のシンプソン夫人との結婚が認められずに退位したエドワード8世は、戴冠式を行っていない。)
写真:ウェストミンスター寺院 ©2023 Dean and Chapter of Westminster
寺院に飾られた花は、チャールズ3世国王陛下がお好きな「ヘレボルス」(お二人の結婚式で王が胸に付けていた花。日本ではクリスマスローズとして知られる。)や、ポピー、チューリップ、スズランなど約120種類にもおよんだ。
これらの花は、スコットランドのスカイ島やウェールズのスノードン山、イングランドのコーンウォールの海岸、そして北アイルランドの花園からウェストミンスター寺院に運ばれました。
写真:戴冠式はガーデニングを趣味とするチャールズ3世国王陛下に相応しく、沢山の花に囲まれて執り行われた。 The Royal Household © Crown Copyright 2023
戴冠式の形式は西暦973年に「バース寺院」で行われたエドガー王の戴冠式の形式が基礎になっています。
式は通常6段階の流れによって執り行われます。
①承認(人々に新君主を紹介する。)
②宣誓(法律を重んじ、英国国教会を支持することを誓う)
③塗油(神の恵みが与えられたことを強調する最も神聖な場面)
④叙位と戴冠(君主としての地位を認め、冠が授けられる)
⑤忠誠(上級王族が新君主に対して忠誠を誓う)
⑥聖体拝受(キリスト教において重要な信仰の行為で、キリストの血と体を象徴するワインとパンを受ける)
これ以外の細かい行為に関しては、その時代に沿った変更がなされてきました。今回の戴冠式もその例にもれず、新国王の意向が多いに反映されたことが感じられました。
例えば、王妃の王冠です。これまでは戴冠式のための新しい王冠が作られましたが、カミラ王妃の王冠はチャールズ3世国王陛下の曾祖母のメアリー王妃の王冠に手を加えたものを使用しました。新国王の望む「持続性と効率性」を考慮したためです。
その他、チャールズ3世国王陛下ご自身の動物愛護精神を反映し、戴冠式で最も神聖な「塗油」の場で使われる聖油は、これまでの聖油からジャコウネコ、マッコウクジラなどの動物性エッセンスを取り除き、ゴマ、シナモン、オレンジ・フラワー、ローズ、ジャスミン、琥珀などをオリーブ油に調合されたものが使われました。
オリーブ油はチャールズ3世国王陛下の父君フィリップ殿下の母が眠る、エルサレムの「メアリー・マグダレン教会」のあるオリーブ山から採れたオリーブで作られました。
こうして出来上がった聖油は、エルサレムの「聖墳墓教会」(※)で奉献式が行われた後、英国に送られました。
(※聖墳墓教会:キリストのお墓とされる場所に建つ教会)
写真:最も神聖な「塗油」の場面では新国王の周りに幕がかけられ、公の目を避けて執り行われた。 ©Crown Copyright 2023
写真 :1661年に作られた聖油の入れ物アンピュラ(アンプラ:Ampulla)と、当時の王室金細工による品として存在する唯一のものである12世紀のスプーン。 Royal Collection Trust © His Majesty King Charles Ⅲ2023
次回に続く…
戴冠式のために特別に設けられた3日間の祝日に英国各地で開催されたストリート・パーティー「コロネーション・ビッグランチ」。
次回はその様子などについてお届けします。お楽しみに!
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