英国・チャールズ3世国王陛下の「戴冠式」(後編)

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

6月は、2023年5月に行われた、チャールズ3世国王陛下の「戴冠式」について。

英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。

〈前回の記事、【英国・チャールズ3世国王陛下の「戴冠式」(前編)】はこちらから〉

それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!



2023年5月6日、ロンドンのウェストミンスター寺院で、チャールズ3世国王陛下とカミラ王妃の戴冠式が行われました。

式の中ではいくつかの椅子が使われましたが、最も重要な椅子が「コロネーション・チェア」です。

「エドワード王の椅子」とも呼ばれていますが、「どこかで見たことがあるような?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

映画『ハリー・ポッター』の中で登場した、ダンブルドア校長の椅子がこの椅子をモデルにしたと言われています。


この椅子は、スコットランドと戦ったイングランドのエドワード1世が、1296年に戦利品として持ち帰った石をはめ込むために作られた椅子です。

この石は「スクーンの石」、または「運命の石」と呼ばれ、スコットランドの王が、何世紀にも渡って戴冠に使用した石です。

エドワード1世はこの石を椅子にはめることにより、ここに座る王はイングランドとスコットランド両方の王であることを主張したのです。


「スクーンの石」は、1996年にスコットランドに返却されましたが、今回の戴冠式の際に再びイングランドに戻り、「コロネーション・チェア」にはめられました。

お菓子の「スコーン」と同じ綴り(Scone)ですが、こちらは「スクーン」と発音します。


写真左:「スクーンの石」がスコットランドに戻される前の「コロネーション・チェア」©2023 Dean and Chapter of Westminster 

写真右:「スクーンの石」がスコットランドに戻された後の「コロネーション・チェア 」 ©2023 Dean and Chapter of Westminster


さて、戴冠式のために特別に設けられた3日間の祝日(「コロネーションの週末」)に、英国各地でストリート・パーティーが開催されました。

2022年6月の読みものの記事では、故エリザベス2世女王陛下の「プラチナ・ジュビリー」の際に行われたストリート・パーティー「ビッグ・ランチ」をご紹介しましたが、今回は「コロネーション・ビッグ・ランチ」と題して英国各地67,000カ所で行われました。

「ビッグ・ランチ」とは、「近所のコミュニティの人たちとランチを持ち寄って食べ、コミュニティに感謝し、絆を深めよう」という目的で、エデン・プロジェクト(※)が2009年に始めた行事です。2013年からカミラ王妃が後援者になっています。

通常6月に行われますが、今回は戴冠式の翌日の5月7日に行われました。

(※エデン・プロジェクト:「地球全体を守るために、人と自然との関係を理解し共同作業で地球を守っていこう」という、環境保護をテーマにしたチャリティー団体)

写真上:チャールズ3世国王陛下の末弟・エディンバラ公爵が参加されたビッグ・ランチ。 The Royal Household © Crown Copyright 2023

写真下:ウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃もビッグ・ランチに参加。 The Royal Household © Crown Copyright 2023

このビッグ・ランチに先駆けて、王室は公式祝賀料理を発表しました。

チャールズ3世国王陛下とカミラ王妃が、ビッグ・ランチのために個人的に選んだ料理は「コロネーション・キッシュ」です。

ほうれん草やそら豆に新鮮なタラゴン(キク科のハーブ)を入れたキッシュで、王室は「温めても、冷めても美味しく、グリーンサラダと、ボイルした新じゃがと一緒に…ビッグ・ランチには最適!」とロイヤルシェフが考え出したレシピに大満足です。


写真:コロネーション・キッシュ ©The Royal Household © Crown Copyright 2023


ちなみに、1953年の故エリザベス2世女王陛下の戴冠式後のランチョン(午餐)では、冷たいチキンをカレー味のクリームで和えたレシピが作り出されました。

このレシピは、フラワーアレンジメントの大家で、第二次世界大戦後にロンドンの「ル・コルドン・ブルー」を再創設した時のパートナーのひとりであったコンスタンス・スプライ女史が考え出したもので、その後「コロネーション・チキン」として英国の名物料理の仲間入りをしたのです。


写真左:コロネーション・チキン Jame F. Carter, CC By-SA 2,5

写真右:コロネーション・チキンはサンドイッチの具としても人気。 Rosakoalaglitzereinhorn, CC By-SA 3


5月7日にはウィンザー城で「コロネーション・コンサート」が行われ、プロの歌手、音楽家、俳優の他、様々な団体から形成された「コロネーション合唱団」のパフォーマンスが行われました。

私が住む町は人口4,000人ほどの小さな町ですが、それでも3日間の祝日は戴冠式ムードに溢れていました。

写真上:「聖エドワード王冠」を描いた、コロネーションの公式エンブレム(右)が町のあちらこちらに。

写真中:理髪店

写真下:食料品店ではピクニックのためのハンパーが。


写真左:教会に続く道にはバナーが掲げられた。

写真右:教会にある、花のディスプレイ。


公園では「コロネーション・ピクニック」が開催され、音楽隊も交えてのお祭りムードを楽しんでいました。


写真左上、左下:公園に集まった人たちが「コロネーション・ピクニック」を楽しんでいる。

写真右:お揃いのファッションで、お似合いのカップル。


この3日間を通して、今、英国王室が大きく変わろうとしていることを感じました。

戴冠式を終えて、英国の君主として歩み始めたチャールズ3世国王陛下には大きな挑戦が待ち受けています。


チャールズ3世国王陛下は、50年以上も前から環境問題を訴えてきました。

1970年にはすでにプラスチック製品の使い捨てによる環境汚染を追及していました。また、1976年には「ザ・プリンス・トラスト(The Prince's Trust)」を立ち上げて、これまでに100万人以上の若者の教育・就業を財政や様々な面で支援してきました。


今回の戴冠式で、チャールズ3世国王陛下の「ペイジ・オブ・オナー(Page of Honour)」として、王のローブの裾を持つ役割を立派に務めた孫のジョージ王子。

将来彼自身が戴冠するころには、英国の王室はどのような変化をとげているのだろう?と考えずにはいられません。


写真上:「ペイジ・オブ・オナー」を務めたジョージ王子 ©Crown Copyright 2023

写真下:戴冠式が終了し、バッキンガム宮殿のロイヤル・バルコニーに立たれた王族 ©Crown Copyright 2023


写真:チャールズ3世国王陛下とカミラ王妃 ©Crown Copyright 2023


<木島・タイヴァース・由美子 プロフィール紹介>

英国政府公認ガイドとして30年以上にわたって英国全土の観光案内をする。

2015年に英国の文化に特化したツアーの企画、アドバイスを専門に扱うカルチャー・ツーリズムUKを設立。

現在は観光ガイドの他に毎月英国の観光、文化に関してのオンライン・トークを実施している。

バッキンガムシャー州で夫、愛犬の3人暮らし。

その他、雑誌や新聞に寄稿。著書に『小さな村を訪れる歓び』『イギリス人は甘いのがお好き』がある。


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