英国・夏に各地で開催される「オープンガーデン」(前編)

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

8月は、英国の「オープンガーデン」について。

英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。

それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!

英国人の園芸好きは広く知られています。それはこの国の約87%の世帯がガーデンを所有しているという数値を見ても納得です。そして多くの人は夏になると一般公開されているガーデンを訪れることを楽しみにしています。

英国ではチャリティーのための募金活動がさまざまな形で活発に行われています。その中でも「オープンガーデン」の取り組みは全国規模で行われます。

「オープンガーデン」とは、個人が所有する庭を有料で一般に公開し、その収益を慈善団体に寄付をするという取り組みです。

各地で開催されている「オープンガーデン」の中で最大規模のものは、「ナショナル・ガーデン・スキーム(National Garden Scheme・以下NGSとする)」が開催するオープンガーデンでしょう。

毎年スコットランドを除く英国全土で3500以上のプライベートのガーデンが公開され、収益金はさまざまなチャリティー団体へ寄付されます。(スコットランドには「スコットランズ・ガーデンズ・スキーム」がある)

2022年は311万ポンド(約5億5000万円)がNGSを通して介護や医療、リサーチ関係などのチャリティーに寄付されました。

現在の後援者はチャールズ3世国王陛下です。


これらのガーデンは、通常一般公開されている貴族の館や、ナショナル・トラスト所有のガーデン、そして普段は公開されていない一般民家のガーデンがあります。

前者は、特定の期日を決めてその日の入場料を全てNGSに寄付をしています。

でも、なんと言ってもNGSのオープンガーデンの特徴は、普段一般に公開されていない個人のガーデンでしょう。


写真:NGSに協力している個人のガーデン。

写真:普段も公開されている「グレート・ディクスター」のガーデン。特定の日の入園料をNGSに寄付している。

毎年発行されるNGSの「イエローブック」には、その年に公開されるガーデンの場所や日程の他、「お茶やケーキのサービスがあるか?」「車いすでも不自由なく見学ができるか?」「犬は連れて行けるか?」「トイレはあるか?」「苗の購入が可能か?」などの情報が記載されています。


写真左:NGSに協力している全てのガーデンの詳細が記載されたイエローブックは毎年発行される。©2023 National Garden Scheme

写真右:NGSの収益金は毎年様々なチャリティーに寄付される。


写真:NGSの募金活動に一役買っている、ホームメイドのケーキ。オープンガーデンの楽しみをより一層盛り上げる。


写真:ガーデンでのティータイム。お茶とスコーンが一層美味しく感じられる。

NGSで公開されるガーデンは、入場料に見合った庭であることが大切なので、事前にNGSの専門家から厳しいチェックが入ります。このチェックに合格することを目指して、園芸に励む人も多いのです。

審査の基本は、「一つのガーデンで45分間以上過ごすのに十分な広さや興味をひく要素があること」です。小さな庭の場合は、ご近所同士の人がグループで開催することも可能です。


写真:NGSのオープンガーデンにグループで協力して参加している民家の前庭。

ところで、NGSは“なぜ”・“どのようにして”発足したのでしょう?

1859年、リバプールの商人であり慈善家であったウィリアム・ラスボーンは、重病の妻が自宅で介護を受けられるようにと、看護師のメアリー・ロビンソンを雇いました。

自宅療養の効果や必要性を理解したラスボーンは、妻が亡き後も、介護料を支払うことのできない人たちのためにメアリー・ロビンソンを継続して雇い、フローレンス・ナイチンゲールのアドバイスのもと、訪問看護師を育てる学校を設立します。

これが後に訪問看護師の養成や、介護のスタンダードの向上に貢献している現在の「クイーンズ・ナーシング・インスティテュート(The Queen's Nursing Institute・以下QNIとする)」の設立に大きく影響していきます。


写真:ウィリアム・ラスボーン©National Garden Scheme

「訪問看護師とは、貧しい家庭の病人を自宅で看護するだけではなく、患者の家族が健康的に生活できるよう指導をする人たちである。」(ウィリアム・ラスボーン)


当時はまだ英国の無料の医療制度である「ナショナル・ヘルス・サービス」(国民医療サービス)が始まる前だったので、その費用をどうやって捻出するかが問題になりました。

QNIでのミーティングの結果、役員のひとりであったエルスィー・ワッグ女史が素晴らしいアイデアを提案しました。それは、英国国民のガーデニングに対する熱意を通して資金を調達することでした。

こうして、庭を持っている人にオープンガーデンを呼びかけたところ、606件の申し出があり、その中には国王所有の「サンドリンガム・ハウス」やモールブラ公爵所有の「ブレナム宮殿」が含まれていました。これがNGSの誕生で、1927年のことでした。

初年度には8191ポンドが集まりました。(現在の日本円で1億2000万円程の価値)


こうして1930年までにはウィンストン・チャーチルや、作家ヴィタ・サックヴィル=ウェストなど有名人の庭も公開され始めました。

写真:ヴィタ・サックヴィル=ウェストが住んだ「シシングハースト・カッスル」のガーデン。現在はナショナルトラストが管理してる。



次回に続く…



次回は、木島さんの住む町で毎年行われている個人宅のオープンガーデンの様子をお届けしますのでお楽しみに!


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