英国・夏に各地で開催される「オープンガーデン」(後編)

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

8月は、英国の「オープンガーデン」について。

〈前回の記事【英国・夏に各地で開催される「オープンガーデン」(前編)】はこちらから〉

英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。

それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!



英国ではチャリティーのための募金活動がさまざまな形で活発に行われています。その中でも「オープンガーデン」の取り組みは全国規模で行われます。

「オープンガーデン」とは、個人が所有する庭を有料で一般公開し、その収益を慈善団体に寄付をするという取り組み。私の住む町でも毎年行われている個人のオープンガーデンがありますので、ご紹介しましょう。

パンデミックでしばらく訪れていませんでしたが、この数年の間に変化していました。まさに、「ガーデンは持ち主の性格、環境、暮らしを反映し、いつも変化している」ということがよく理解できます。

教会で5ポンド(約900円)のチケットを購入すると地図が渡され、この日公開されている9軒のガーデン全てを訪問することができます。

写真:公開されているガーデンの地図

まず訪れたのは「アボッツハウス」です。ここは、#英国ライフのコラムでも以前(2022年10月の記事)ご紹介した「レニーズ・ウィンズロウ・サイダー」を製造している民家です。

3000㎡の広い庭は5つの「部屋」に分かれています。(ガーデン内に仕切られた複数のガーデンがある場合は、それぞれを「部屋(Room)」と呼ぶことがある。)


写真:池に注がれる水。その流れる音に、心が癒される。

「メドウ」とは牧草のことですが、「メドウガーデン」は野生の植物を刈らずに自然にまかせて育てるガーデンです。

蜂や蝶などの野生生物が好むガーデンなので環境にも良く、手入れの行き届いた他の部分の植物にも効果があります。


写真左:14世紀の「聖ローレンス教会」を背景に、古い煉瓦の壁に囲まれた「ウォールドガーデン」。

写真右:「メドウガーデン」の野生の蘭。

それぞれの「部屋」は、「安らぎを与える部屋」、「遊び心がくすぐられて楽しい気分にさせてくれる部屋」などバラエティに富んでいます。

私の住む町で日本の方にお会いするのはとても珍しいのですが、18年間「アボッツハウス」でガーデナーとして庭のお世話をしている、Yoshimiさんという大阪ご出身の方に出会いました。

「メドウガーデンも、それなりに手がかかることもあるのですよ。」と様々な苦労話もお聞きしました。


写真:18年間「アボッツハウス」のガーデナーをされているYoshimiさん。

このガーデンでは、ふだん見られない植物、地中海風などの珍しい植物も目につきましたが、オーナーのジェイン・レニー夫人がキュー王立植物園で学ばれたということを知り納得。

中世の英国で食されていて、シェイクスピアの作品にも時々登場した果物「メドラー(medlar)」の木もありました。今では、植物園など特定の場所でしか見られない珍しい木です。

日本のビワはメドラーと同じ仲間に属することを、Yoshimiさんが教えてくださいました。日本のビワは「ジャパニーズ・メドラー」と呼ばれるとか。


写真:シェイクスピアが作品の中で「お尻の穴(open-arse)」と呼んだメドラーの木と実。©Yoshimi


次に訪れたコードナーご夫妻のガーデンは、こじんまりとした楽園です。

この日、作家である奥様ジェニーさんはご自分の本を売って救急医療サービスへと寄付していました。


写真左:コードナーご夫妻

写真右:コードナーご夫妻の庭を上のベランダから眺めたところ


写真左:庭の隅に置かれた、サマーハウス(庭に建てた小屋。ガーデンハウス。)のインテリア

写真右:個人のガーデンでは、置かれているオブジェも楽しい。

この後、4~5軒のガーデンを周りましたが、どこもオーナーのお人柄が感じられ、また植物と自然に癒されながら充実した一日を過ごしました。


写真左:「アッシュリング・コテージ」のシャクヤクがちょうど真っ盛り。

写真右:テーブルが用意されたガーデンでは紅茶とスコーンを。

「ティンカーズエンド・コテージ」は芝生の広大なガーデンに、うすいピンクやレモン色のジギタリスが印象的でした。


写真左:広大な敷地を持つ「ティンカーズエンド・コテージ」

写真中:ジギタリスは、英国では「狐の手袋(foxgloves)」と呼ばれる。

写真右:4~5軒のガーデンを訪問した後は、美味しい紅茶を飲みながらひと休み。花たちに囲まれていただくスコーンと一杯の紅茶は格別です。


こうして私の町のオープンガーデンはお天気にも恵まれて大成功だったようです。

この日の収益金1,100ポンド(約20万円)は、村の教会や、ホスピスなどのチャリティーに寄付されました。

美しいお庭を大勢の人とシェアし、それが更に社会に貢献するオープンガーデンは、正に英国の夏の風物詩と言えるでしょう。


<木島・タイヴァース・由美子 プロフィール紹介>

英国政府公認ガイドとして30年以上にわたって英国全土の観光案内をする。

2015年に英国の文化に特化したツアーの企画、アドバイスを専門に扱うカルチャー・ツーリズムUKを設立。現在は観光ガイドの他に毎月英国の観光、文化に関してのオンライン・トークを実施している。

バッキンガムシャー州で夫、愛犬の3人暮らし。

その他、雑誌や新聞に寄稿。著書に「小さな村を訪れる歓び」「イギリス人は甘いのがお好き」がある。

〈カルチャー・ツーリズムUKのホームページを見る〉

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