1/25(水)から、3F コトコトステージ31にて開催するイベント"HANKYU.MODE GALLERY"に出店する、「tomo kishida(トモ キシダ)」岸田朋大さんにHANKYU.MODEがインタビュー。コットンを種から栽培し服を作る『LAND TO SKIN(ランド トゥ スキン)』、"裂き織り"という技法を使い布のハギレから服を作る『uni iroikas(ウニイロイカス)』、布からインスピレーションを受けて制作されるジュエリー、3つのプロジェクトについてお聞きしました。
(糸を紡ぐ、生地を織る、衣服を縫う等の制作過程のほとんどがこのアトリエで行われている。)
――まずは『LAND TO SKIN』プロジェクトについて、お聞きしたいと思います。コットンの栽培からされているそうですが、どのくらいの大きさの畑から、何着分ほどのコットンがとれるのでしょうか?
25mプールほどの大きさの畑で育てているのですが、収穫するのは、20~30キロほど。20着くらい作れる量でしょうか。実際には、糸を紡ぐことから手作業でおこなっているのでたくさんは作れず、服になるのは年に4着ほどになっています。
――日頃、出来上がった服しか見ることがないので、実際、コットンをどれぐらい使って服ができているのかを知ることができてとても興味深いです。本来は服を一着作るということはとても労力と、時間が要ることですよね。
そうですね。そういったことを手に取ってくださった方に実感してほしいと思っています。自分たちにとっては量を作って販売しビジネス的な利益を得る、というより、背景をきちんと伝えて何か感じてもらうことが大事だなと。
現状、地球上で衣類は飽和していると思います。安い価格帯の服が出て、誰もが手に取れるという、量産できる技術はすばらしいものですし革命だと思いますが、飽和してしまって人が着られないほどの量になっているのに、それに疑問をおぼえないのは、不思議だなと。革新的な技術はうまく利用するべきですが、ビジネス的な視線でしか使われてないのが問題だなと感じています。
――そうですよね。本来なら、技術の発展はとても素晴らしいことなのですが、ひたすら増産の方向で発展していってしまい、このように服が飽和してしまう状況を招いたことは問題だと思います。
作った後の責任が欠けている、と思います。なので、自分はなるべく飽和しないものづくりを心がけています。展示会を回っている間は、アトリエにストックがないくらい、ミニマルに。前、前々のシーズンのものも関係なく見てもらえるコレクションを作ること。飽和してしまっている全ての産業に、そういう問いを投げかけたいなと思っています。とは言え、ファッションの場ですので、暗く言うつもりはなく、自分のものづくりへの姿勢で、そういう思いを感じてもらえたらと思っています。自分自身もファッションが好きで、モードやコレクションブランドが好きですが、次々と商品のサイクルが回っていくことに、疲れてしまった気持ちもあったんです。同じような気持ちを抱かれた方をほぐしていけたらいいなと思います。
――今回、モードやコレクションブランドが並ぶ阪急百貨店にご出店いただくことになりますが、まさにそのような服がたくさんある場所で、服はどうできているのかという過程を伝えていただけることは、とても意味があることだと感じています。
百貨店というマスをとらえるような媒体と関わることになるので、意味のあることができたらと思います。まず、多くの方々に自分のニッチな活動の存在を知ってもらうことは有難いこと。そして、活動の中身を、今までお話しする機会がなかったような色んな層の方々にお伝えできればと思っています。
面白いチャレンジだと思っている一方で、慎重にブランディングをしてきて、少しずつ皆様の手に取っていただけるようになったところなので、リスクも感じています。こだわりのある人々にとっては、百貨店に出店するというのは、もはやネガティブな要素すらある。「(マスに)出ちゃうんや」というような気持ちですね。それもわかるのですが、コットンのプロジェクトにしても、そもそも実験的な感覚でスタートしているので、それもある意味実験と思い、とにかくやってみようよ、という気持ちです。とはいえ、悪い意味でのファッションにならないように。本質的な意味を伝えていけたら。活動が広がることで軽くなってしまわないように、慎重に、伝えていきたいですね。
ファッションブランドではなくて、職人としてでもない、どこにも所属しない形でやっているので、いつもと違う空気感を取り入れて融合ができたらなと思います。細々とやってるだけでは、大きな問題は解決しないですし。でも、社会のためを思って、という気持ちで行っているわけではなく、自分が好きだと思うので、やり続けられるようにしていきたいという思いが強くて。実際、簡単ではないです。安いものをたくさん作れば、簡単にお金にはなる。ですが自分は高価なものを少ししか作れないので、しっかり見てもらえるような努力はしなくてはいけないなと。普通ではないやり方なので課題は多いですが、こつこつ続けられるようになったらいいと思います。
元は、好奇心から始まった実験的なプロジェクトです。イチから自分の手で服を作ってみたかったし、コットンも育ててみたかったんです。昔の人はやっていたはずだから。続けていく中で、活動の意味合いが見えてきました。はじめから使命感を持っていたわけではなく、活動を始めてからそう思うようになったんです。これからも、いろんなことを思いながら、何をすべきなのか、という方向性を自分の中で見つけ続けていけたら、と思っています。
畑から採れたコットン。「年によって、とれる繊維長が変化しています。うまく成長すると長くなるんです。それによって糸の強度が増したり。たとえば、よく聞くスーピマコットンは繊維長を長くしている(細くて強くなる)んですね。シルキーなきれいな布を織れる、だからいいとされているんです。ですが、手紡ぎの場合は繊維長が長くても短くても紡いでいけるので、あえて繊維長の短い綿を使ったりしています。種をとるところだけ、製糸工場で種をとる機械を借りています」
繊維の方向を一定に整えるカーダー。「種をとったコットンは、もじゃもじゃの状態なので、カーダーを使い、繊維を伸ばし整えます。どういう糸にしたいかによりますが、細い糸を目指す場合、何度もこの作業を繰り返していきます」
糸車を使って、糸を撚ることで糸が生まれる。「撚りながら糸車に入れていきます。繊維を整えると細くて綺麗な糸になり、ざっくり整えると不均一な味のある糸に。1時間紡いでとれるのは、約10センチ分織れるぐらいの量。手紡ぎで行うので、あえて均一さより、手垢感、手でやっている温もりを糸で表現できたら」
海で拾ってきた貝と石を使ってシャツのボタンに。「不均一ですし、プロダクトとして丈夫さも確立されているわけではないですが、きれいで均一で同じ服を着たければ、世の中にいくらでもある。自分が作る必要がないなと。なのであえてちょっとチャレンジングで、そこが愛せるような服であればいいと思っています。ボタンが壊れたら、じゃあ次何をつけようか?と相談して替えられる、汚してしまった時は違う色に染めかえる、そういうリペア、アフターケアの面白みも伝わったら。そうした工程を続けていくと、モノを長く愛せるようになるのではないか。そういう服が自分も欲しかったので、そういう存在になれたらと思っています」
(裂き織りの様子。ハギレを細く、できるだけ長く裂いていく。できあがったものは緯糸棒に巻き付け、織っていく)
――『uni iroikas』についてもお聞きしたいです。裂き織り、という技法を初めて聞いたのですが、作り始められたきっかけは何でしたか?
『uni iroikas』は、服飾学校に通っていた頃、よく使われていたシーチング(仮縫い用の生地)が、すぐに捨てられてしまう上に量が多く、もったいないと思い再利用して服を作ったことが始まりでした。今は、どうしてもハギレができてしまう生地屋さんに、使い道のないハギレを安く譲ってもらったり、捨てるものをもらったりして集めたハギレなどの布を、手やカッターを使って細く裂いて、糸と順番に組み合わせて織り上げる"裂き織り"という技法を使っています。裂いた糸を継ぎ足したところは、表面がぼこっとなっていたりするのですが、それも味、楽しみ、かなと思っています。
――テクスチャーが素敵なジュエリーについても伺いたいです。
ジュエリーは、服を作った後にできた布のハギレを手縫いでリングやバングルの形にし、その型をとって、金属を流し込み鋳造しています。元の型は型を取るときにそのまま燃やしてしまうので、それぞれ異なる形に仕上がっています。
1/25(水)~31(火)のイベントでは、『LAND TO SKIN』プロジェクトのウェアとジュエリーが並ぶほか、糸車や機織り機によって服ができあがる過程を体験いただけます。どうぞお楽しみに。
岸田朋大
「tomo kishida」ファウンダー。大阪府出身。大学、大学院で建築を専攻した後、メーカーの技術職に就職。働きながらバンタンデザイン研究所の日曜日コースに1年間通い、卒業と同時に「tomo kishida」をスタート。現在は大阪を拠点にしながら、各地でポップアップイベントを開催。また、1/12(木)には、大地から肌、を目指し服を作った三年間の軌跡を記した書籍『LAND TO SKIN』(托口出版)を刊行。